病気が進行する犬にできることは何かないか 愛玩動物看護師がとった行動
治療開始、でも薬が効かない
そこからわずか数日の間にも病状は進行する。貧血が悪化したことで、ついに再生不良性貧血と確定診断が下された。薬での治療がスタートする。 「でも、進行があまりにも速すぎて。薬が効かず、日ごとにどんどん悪くなっていく中、次に打つ手がきわめて難しい状態でした」 これほどの猛威を振るう病魔を前に、飼い主にしてあげられることは見つからない。それでも村上さんは臆せず、女性のもとへ足を運ぶことをやめなかった。「今、お家でどんなケアをしていますか?」「どんなことが不安ですか?」と声をかけ、女性の言葉を受け止め、ともに悩む。「何もできないし、役に立つことは何も言ってあげられないけれど、とりあえず話し相手になろう」。その思いにつき動かされながら。 愛犬が病気になったのは、自分に落ち度があったからではと女性が口にした時は、そんなことはいっさいないと断言した。また、「飼い主として何もできていない」と、やはり自分を責めるニュアンスを感じた時には、「ここまでワンちゃんのことを考えて悩むことも、病院に連れてくることも、とてもすごいこと」と、心を込めて伝えた。 「治療や検査など長時間病院にいることもある中、毎日病院に通ってくるのは大変です。決して当たり前ではないと、知ってほしかったんです」
無意味なんかじゃなかった
最初の来院から数週間ほどして、ビーグルは自宅で息を引き取った。連絡を受けた村上さんは、無力感にとらわれた。 治療で目に見えた改善がほとんどなく、役に立つアドバイスも言ってあげられなかった。病院のスタッフとして、何も力になれないまま、すべてが終わってしまった――。 しばらくたったある日、女性から電話があった。担当の獣医師にお礼を伝えるために。 と、ここまではよくある話。女性はその後、「村上さんに電話を替わってほしい」と言った。名乗った記憶はないため、おそらく掲示板のスタッフ紹介か名札を見て、名前を覚えていてくれたのだろう。 わざわざ指名してくれたことに驚いていると、女性は「ありがとうございました」と感謝を述べた。村上さんは正直な思いを口にした。 「お力になれたかどうかって、思っていたんですけれど……」 すると女性はこう言った。 「あの時、色んな言葉をかけてくれたのが、本当に心強くて、うれしかったんです」 予期しなかった言葉に、村上さんの内から力がわいてきた。あの行動は、決して無意味ではなかったのだ。 「話を聞いて、ただ一緒に悩むだけでも、飼い主さんがそれを必要とする時があり、動物看護師ができる仕事のひとつなのかなと思えたんです。あの体験以来、飼い主さんと話すことを大事にして仕事に向き合うようになりました」 この時心で感じた、飼い主と話すことの大切さ。その本質を、「看護」の視点から改めて理解するのは、まだ数年先のこととなる。このお話は後編で。 ※愛玩動物看護師の国家資格化に伴い、現在、この資格を持たない人は、動物看護師などの肩書は名乗れません。しかし、国家資格化以前は動物看護師という呼称が一般的でした。本連載では適宜、動物看護師、または看護師などの表現を用いています。