テック人材が集まる米都市はどこ? 起業の拠点、今選ぶなら
IT大手や新興テック企業の多くは米カリフォルニア州のサンフランシスコ・ベイエリアに立地し、特にシリコンバレーの中心地とされるメンローパークやパロアルトを拠点としている。しかし、米ベンチャーキャピタル(VC)のシグナルファイアがまとめた最新報告書『State of Talent Report』によると、テック業界を取り巻く環境の変化、とりわけパンデミック下で人材の移転が進んだことによって、起業家やスタートアップには新たな課題が突きつけられ、同時に新たな機会も生まれているようだ。 ■移動するテック人材 テック業界では分散化が進んでおり、全米に新たなITハブが出現しつつある。テック人材プールの地理的進化の背景には、リモートワーク、生活費の高騰、従来の拠点地域にとらわれないテック業界の発展を後押しする米政府方針などがある。 テキサス州オースティンは、IT大手の従業員数が2019年以降に44%増と全米で最も伸びた都市だ。メタ、グーグル、オラクル、テスラ、スナップ、アップルといった大企業の誘致に成功し、本社移転や拠点拡大の動きが近年相次いでいる。 VCが支援するスタートアップの従業員数に関しても、テキサス州はオースティンが23%増で1位、ダラスが19%増で3位と、増加率トップ3のうち2都市を擁する。2位は20%増のワシントン州シアトルだが、大企業から新興企業への人材移動が増加分の多くを占めており、IT大手の人材増は6%にとどまった。 -{AI人材の多さで独り勝ちの都市は}-- ただしシグナルファイアの報告書は、「IT業界の人材増加率はオースティンが最大だったが、人数では2位で、移転した人材の半数弱がニューヨークへ移った」と指摘している。 ■「負け組」の都市は? 知名度の高いITハブに人材が集まりにくくなっている。「負け組」トップ3はサンフランシスコ、シアトル、ボストンだ。生活費の高さが主な要因とみられているが、ニューヨークは例外で、家賃が天文学的に高騰しているにもかかわらず、2019年以降に移転したIT人材のうち最も多くを呼び込んだ。 このほか、かつてITセールスの中心地とみなされていたアリゾナ州の人材数は、過去5年間で7%縮小した。 ■AI人材が多いのはやはりシリコンバレー テック労働者がシリコンバレーから流出する動きが広がってはいるものの、人工知能(AI)や機械学習を専門とする人材の多さでは、依然としてサンフランシスコ・ベイエリアを筆頭にシリコンバレーが独り勝ちの状況だ。 「全人口に占めるテック系人材の割合では、サンフランシスコが群を抜いて全米1位だ。今日何より必要とされているAI人材も最多を誇る」と、シグナルファイアのパートナーで人事責任者のヘザー・ドーシェイは説明する。「その優位性はまったく脅かされていない。テック人材の密度という点では、今なお最大の人口を有している」 2023年10月、ChatGPTの親会社であるOpenAIは、2018年以来サンフランシスコで最大級となるオフィス賃貸契約を結んだ。ミッションベイ地区のオフィススペースは約4万6500平方メートルに及ぶと地元紙サンフランシスコ・クロニクルは報じている。 また、ペンシルベニア州ピッツバーグとオレゴン州ポートランドは疑いなくAI人材の急成長拠点になりつつある。 ■テック業界で創業、選ぶべき拠点は 創業後に競争力を維持するためには、オースティン、ニューヨーク、ダラスといった成長著しいITハブを拠点とし、人材の流入を最大限に活用することを検討すべきだろう。2022年以降にレイオフが相次いでいることからもわかるように、IT大手はもはや安定した働き口ではなくなっており、VCの支援を受けるスタートアップに魅力を感じるテック系労働者が増えている可能性がある。また、リモート人材の活用や、本社と複数のサテライトオフィスを構えることも検討するとよい。 現在の労働市場は買い手優位だが、需要の高いAI人材は例外となっており、優秀な人材を引き付けるには、名高いIT大手と競合する分野ほど創造的な思考で柔軟な働き方を提供する必要がある。 シグナルファイアは企業に対し、既存の労働力の中から必要とする人材を発掘するよう助言している。スキルアップや社内での部署移動の機会があれば、従業員はスキルを向上させ、重要な技能を習得して仕事の範囲を広げることが可能になる。企業は人材を外部に求める必要がなくなり、従業員の成長を促すこともできる。
Jack Kelly