阪神のFA糸井獲得の光と影。救世主になれるのか?
ひとつは、左打者に不利な浜風の吹く甲子園でホームランが減り、バッティングを崩すのではないかという不安だ。もうひとつは、昨年のセ、パ交流戦で、打率.231、1本、7打点と対セ・リーグの投手相手に打てなかったこと。一昨年も交流戦では、打率.226、3本、9打点と低迷している。配球を読まず、どんどんファーストストライクに手を出していく糸井のバッティングスタイルの弱点をつかれた。ストライクゾーンで勝負してくるパ・リーグの野球と、ボールゾーンで勝負してくるセ・リーグの野球の差に戸惑ったと見られる。そう考えると、打率3割をどこまでキープできるのかという疑問は残る。 加えて2番の打順で、チームバッティングを求められたときに糸井が対応できるのかという問題。日ハム、オリックスと、糸井は“自由”を与えられてこそ結果につなげてきた。 その点を考慮して三宅さんは「1番・糸井」説を強調する。 「糸井に力を発揮させるのは1番ではないでしょうか。好きに打たせて走者に出たらグリーンライトで走らせればいい。結果的にそれがラン&ヒットになるかもしれないが、相手チームにとっては嫌ですよ。確かに左打者を2番に置くのは面白いし賛成だが、糸井にあれこれ制限をつけるとマイナスになるケースがあると思う」 また糸井がライトに入るならば福留が一塁、糸井がセンターに入るならば福留がライトで、一塁には原口か、三塁のつもりで獲得した新外国人のキャンベルが入るなど、チーム状態や相手との相性を見ながら、ポジションのシャッフルを繰り返さねばならなくなる。この歪みがチームから安定感を奪う危険性もある。 そして最大の不安がマスコミとファンの注目度の違いだ。 これまで日ハム、オリックスと、そこまで大きなプレッシャーのある中で野球をやってこなかった糸井が阪神独特の特殊な空気、環境、ファンの中で、持っている実力を発揮できるかどうか。 こればかりは、やってみなければわからないが、前述の三宅さんは、「宇宙人と言われるように何を考えているかわからないような糸井の性格も、ファンやマスコミのプレッシャーが激しい阪神では逆にプラスに働くかもしれない」と好意的に見ている。 また自ら広島からFA移籍して環境の違いをクリアしてきた金本監督なら、体験に基づいて糸井をうまく成功に導いてやることが可能かもしれない。またオリックス時代から糸井と仲のよかった平野コーチを1軍に昇格させたので、メンタル面でのフォローは問題ないだろう。 今季、あれだけ若手にチャンスを与えながら、あえて禁断のFAに手を出した。外野のポジションひとつを35歳の糸井に渡すのだから、もし勝てなければ、若手育成のビジョンはどこに置き忘れたか? の批判が出てきてもおかしくない。だが、フロント、現場共に、その声が起きることを承知でファンの期待に応えるために大補強に動いたのである。来季のポイントは、藤浪、鳥谷の復調や、若手のさらなる成長、高山の2年目ジンクスの克服、勝利方程式の構築、捕手の固定など、多々あるが、課題の得点力をアップさせるために、糸井と新外国人の活躍が、最大の鍵であることだけは間違いない。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)