Wez Atlasが語る、リリシスト/ポップスターへの挑戦 日本語と英語で韻を踏むスキル
Wez AtlasがEP『ABOUT TIME』をリリースした。冒頭の「One Life」を聴いてすぐに、変化を感じた人も多いのではないか。日本語詞が大幅に増えた。ラップのアプローチが変わった。Wez、何があった――? これは、彼にとって新たなスタートを告げる作品なのか? これまでのWez Atlasといえば、いわゆるバイリンガルラッパーとしての華麗なラップスタイルを想起する人が多いだろう。国際的なバックグラウンドを反映しながら繰り出される英語と日本語のシームレスなラップは、トラックも含めてどこか洒落た印象がある。それはジャパニーズ・ヒップホップが継承してきた政治性、あるいはパーティ感覚とは明らかに異なるカラーであって、一方でUSラップとも違う独自の雰囲気をまとっていた。けれども、その独自性に彼は悩んでいたようなのだ。新たなフェーズへ舵を切った、Wez Atlasに話を訊いた。 ―EPを聴いてびっくりしました。何があったのか気になっていたんですよ。ひとまず今作の制作がどうやって始まったのか訊いてもいいですか。 Wez Atlas:さかのぼると、今回のEPを出す前に「RUN」というシングルを去年の12月にリリースしたんです。それは自分のバックDJをしてくれているnonomiと(w.a.uの)Kota Matsukawaと作った曲で。その後、次に新曲を出したのが今年の8月でした。けっこう期間が空いたんですよね。制作も止まってたりしてて。再開してからはEPに向けてどんどん進んでいけたんですけど。 ―期間が空いて、制作が止まっていた時期は何かあったんでしょうか? Wez Atlas:何だったんでしょうね……。うーん……状況が変わって、チームも変わって、方向性を見直すタイミングだった。Wez Atlasって何だっけ?ってなったんです。今までやっていた音楽が、このまま日本に住んでいてどこまでいくんだろうなって考えてしまった。それで、日本で勝負してみようかなという結論にはなったんだけど、それもようやく出せた答えというか。ずっと悩んでいて、制作も止まってました。 ―なるほど……けっこう悩まれたんですね。 Wez Atlas:けっこうしんどかった。ただ、その間は新しいこともたくさん学べたし、25歳ってそういう時期なのかなと思いました。英語圏だと「クォーターライフクライシス」って言うらしいんですけどね。 ―そもそも、昨年リリースされた「RUN」がかなり大きな変化を感じさせる曲でしたよね。今回のEPの方向性は、あの曲の手応えも関係していますか? Wez Atlas:「RUN」を出した時は、まだはっきり答えがなかったんですよ。あの時は、とりあえずやってみたという感じで。それで、びっくりしてたリスナーも多かった。自分もそれを知って「えっ……」ってなって(苦笑)。今聴き返すと普通にいい曲じゃんって思うんだけど、やっぱり色々考えちゃいました。リリースした後にそういう気持ちになるのは初めてだった。 ―そうやって悩まれた結果、今回のEPのような作風になったというのはどういう経緯があったんでしょう。 Wez Atlas:うーん……(しばし考える)。去年と今年、サウスバイサウスウェスト(SXSW)に行ってアメリカでライブをする経験があったんです。アメリカの街を歩いて暮らしを見るじゃないですか。その後日本に戻ってきて、「どっちかに決めなきゃ」と思った。そもそもアメリカもどんどん物価が高くなってるし、俺アメリカ行く!っていうのも無茶なのかなって考えたりして(苦笑)。もちろん今でも諦めてるわけではないけど、いま目の前に日本のお客さんがいて、自分の音楽を好きって言ってくれてるんだったら、そこにちゃんと向き合ってみようと思いました。 ―その決断は、Wezさんお一人で決めたんですか? それとも誰かに相談しつつ? Wez Atlas:チームのメンバーも含めて、色んな人と話しました。その結果、今まで作ってきた音楽に対してもうある程度満足できたな、と思ったんですよね。自分は今まで、シーンのこととか聴く人のこととか特に考えず、本当にやりたいことをやってきたんです。だから、それはもういいかなって。それで……うん、俺は、ポップスターになりたいのかなって思ったんです。もっと大きい規模でやりたい。どうやったらそれができるのか、考えるようになった。 ―価値観が変化してきた。 Wez Atlas:自分のやりたいことだけをやって小さい規模で活動していくのももちろんそれはそれで幸せだと思うけど、自分は曲に込めているメッセージをもっと多くの人に届けたいと考えるようになったんです。なぜかというと、今まで思ってたより全然伝わってなかったんだなって気づくことがあったから。Wez Atlasというアーティストの印象が、英語を話せるファンベースと話せないファンベースで全然違うんですよ。日本のリスナーには、表面的にしか伝わってないみたいで。だから、もっと知ってほしいです。 ―今回、日本語詞が増えているのはそういう背景があるんですね。日本語が増えたことで、何か新しい発見はありましたか? Wez Atlas:日本語での自分の声を見つけるのにすごく苦労しましたね。普通に日本語は話せるけど、英語の方がパーソナリティとして仕上がってるから、最初はちょっと迷いました。英語で長く歌詞を書いていると、自分はメンタルヘルスや内面について語る人なんだ、と色々イメージがつかめてくるんですよ。でも、日本語だとまだあまりつかめない。そこのペースを上げなきゃと思って、最近は日本語のヒップホップをたくさん聴いています。 ―例えばどういった作品を聴いていますか? Wez Atlas:最初にハマったのは5lackさん。日本語の書き方が自分にとってすごくよく分かるというか、シンプルだけどクスッと笑える感じが魅力的。そこからSUMMIITのOMSBさんとかPUNPEEさんとか。他に、藤井風さんも。皆、日本語でこういうこと言う人なのかー!というのが少しずつつかめてきてます。あとね、最近、Wezのラップはめちゃくちゃ聴き取りやすいねってすごく言われるんですよ。 ―そう、すごく聴き取りやすいですよね。だからなのか、悩んでいる状態で書いたにしては、歌詞もラップもすごく風通しが良いなと思いました。 Wez Atlas:そうかもしれない。ありがとうございます。