保険会社による過度な便宜供与の温床となってきた自動車ディーラーなどの「テリトリー制」は廃止される見通し
自動車ディーラーなどが、顧客に推奨する保険会社を店舗ごとにすみ分ける「テリトリー制」について、金融庁は監督指針などの改正によって廃止させる方針だ。 【写真】テリトリー制を許容する根拠となった保険業法施行規則の規定 テリトリー制をめぐっては、保険会社が不必要な車両や物品をディーラーなどから大量購入するといった「過度な便宜供与を誘引している」(金融庁幹部)との指摘が、かねて上がっていた。 特に損害保険業界では、保険代理店を兼ねる一部のディーラーが、損保各社の便宜供与の度合いなどによって推奨する会社を店舗ごとに決定。顧客の意向にかかわらず、その店舗を担当する損保の自動車保険を集中的に販売するという慣習がある。
■トヨタ子会社の「推奨保険会社一覧」 金融庁が立ち入り検査に踏み切ったトヨタ自動車の完全子会社、トヨタモビリティ東京では「店舗別推奨保険会社一覧」を、ホームページ上で公開。今年4月時点の同一覧表をみると、約200店舗のうち46%に当たる店舗はあいおいニッセイ同和損害保険が担当しており、32%が東京海上日動火災保険、19%が三井住友海上火災保険、3%が損害保険ジャパンとなっている。 そもそもテリトリー制が白日の下に晒されたのは、中古車販売大手ビッグモーターによる事故車修理費用の不正請求問題がきっかけだった。
ビッグモーターは、事故車の(入庫)紹介件数や出向者の人数などに応じて、各損保のテリトリーとなる店舗を割り振り、その店舗を担当する損保の商品を顧客に集中的に販売。それがいつしか、損保各社によるテリトリー店舗の争奪戦につながり、ビッグモーターの不正請求を黙認することにつながっていったという経緯がある。 一方で、11月に施行された改正金融サービス提供法では、金融商品の販売時に顧客の最善の利益を勘案する「誠実公正義務」を、金融機関や保険代理店などの販売事業者に課した。
顧客の意向を置き去りにして、ディーラー側の都合で店舗ごとに推奨する商品を変えるのは、改正金融サービス提供法の趣旨に反する。そのため複数の保険会社の商品を扱うディーラーなどが、店舗ごとに推奨保険会社を定めることは、原則として認めない方針だ。 また、金融庁はテリトリー制の抜け穴になりそうな部分についても、監督指針やパブリックコメント(意見公募手続き)を通じて対策を講じる。 抜け穴の一つとして懸念されているのが、ディーラーに来店した顧客が、どの損保会社の自動車保険にするか明確な意向がなく、「どこでもよい」と言ってくるようなケースだ。その場合は、ディーラー側が推奨する商品を選び出し、選んだ理由を顧客に説明することになる。