保険会社による過度な便宜供与の温床となってきた自動車ディーラーなどの「テリトリー制」は廃止される見通し
一方で、同ケースにおいて現在の規制(保険業法施行規則227条の2第3項第4号ハ、通称「ハ(は)方式」)をそのまま適用すると、どうなるのか。「当社の経営方針としてこの損保の商品を推奨する」などと、「たとえ偽りであっても推奨する理由さえ説明すれば、実務上は問題ないということになる」(金融庁幹部)。 先述したようにビッグモーターでは、便宜供与の度合いによって推奨する損保会社を事実上決めていた。にもかかわらず、ハ方式の規定を利用して「この保険会社の事務に精通している」などと誤魔化した理由を顧客に説明し、自分たちにとって都合がよくなるように、顧客の意向を半ば無視するかたちで商品を推奨していたわけだ。
そのため、金融庁はテリトリー制を許容する根拠となってきた「ハ方式」を、施行規則から削除する方針だ。 さらに「保険会社はどこでもよい」と顧客が申告した場合は、特定の商品を推奨する理由として、「経営方針」や「資本関係がある」といった代理店都合の理由は認めないこととする。 加えて、自動車の利用頻度や保険料の高低をどの程度重視するかといった顧客の属性および意向把握の手続きを厳格化する。その上で、顧客の最善の利益に資すると判断した理由を、ディーラーなどの代理店が説明することを求める方針だ。
■抜け穴をふさぐ金融庁の強い意向 金融庁では当初、顧客の意向が不明確なケースでは、従来通りディーラーをはじめとした代理店の都合によって推奨する商品を選び出し、その理由を説明することも実務上はやむを得ないという意見があった。 一方で、保険販売の現場では「形式的であっても推奨理由の説明をしていたビッグモーターはまだマシで、推奨する理由すら説明せずに、自動車保険を売りつけようとするディーラーは山ほどある」(大手損保幹部)というのが実情だ。
そうした実態を踏まえると、どの保険会社でもよいと顧客があたかも言ってきたかのように装い、これまで通りディーラー側の都合で推奨する損保を自由に差配できるようにするという「潜脱リスク」が拭えない。 そのため金融庁は、テリトリー制を実質的に残す抜け穴とならないように、まずは顧客の意向把握手続きの厳格化によって、意向が不明確なことで代理店側が自由に推奨損保を決めることができるケースを極小化。その上で、顧客への誠実公正義務に沿わない単なる代理店都合による商品の推奨は、いかなる場合においても認めないこととすることにした。
中村 正毅 :東洋経済 記者