「日本一の司会」はなぜ「相手のどうでもいい話」まで覚えられるのか…古舘伊知郎さんが実践するたった一つのこと
■記憶は、「契約したスポーツジム」と似ている 人の性格はさまざまだから、向き不向きはあると思う。神経質と聞いて「自分にも覚えあり」と思った人は、一度試してみるといいかもしれない。 ところで、今は朝日新聞デジタルに過去の記事がアーカイブされている。「折々のことば」も例外ではない。僕もたまにデジタル版で見ては、「このいい言葉……」とデバイス上に保存しようとすることがある。でも、やめる。保存すると、「いつでも見られる」と安心するから、保存したという事実をもって忘れてしまう。 僕はこれを「契約したスポーツジム理論」と呼んでいる。理論でもなんでもない、ただの思いつきだが、「理論」と付ければ前々から考えていたように見える。これがいやらしいなぁと思って言ってみたのだが、スポーツジムとは多くの人にとって、行くところではないと思うのだ。会員になり、「これで毎日のように行ける」と思って安心した結果、行かなくなる場所。もちろん、定期的に通う方もいるだろうが、僕のようなズボラ人間であれば、「幽霊会員」になっている人が多いのではないだろうか。 記憶も「契約したスポーツジム」とちょっと似ている。スマホの中に保存してしまうと、いつでもすぐにアクセスできるので覚えない。そして、いつでも見られると安心するので、思い出そうとすることも減り、「『折々のことば』にいい言葉が載っていた」という記憶そのものが消えてしまう。「幽霊会員」ならぬ「幽霊記憶」だ。 ■スマホに保存したところで、何も覚えられっこない 中には、デジタルを活用するスマートな方法が向いている人もいるだろう。だが僕には、どうも馴染まない。安心するといろんなことを忘れていって、引っ掛かりがなくなってしまう。残念ながら僕のような捻くれ者には、向いていないのだ。 スマートフォンにスマートに保存したところで、何も覚えられっこない。要領の悪い僕には、面倒くさくて時間のかかる方法が一番合っている。 ギザギザの切り抜きは、あくまでも記憶のトリガー。そこに書かれていることを丸ごと覚えておくためのものではなく、「なんかいい言葉が載っていた」という違和の引っ掛かりだけ残しておいて、後から手繰ることができるようにしているわけである。 ---------- 古舘 伊知郎(ふるたち・いちろう) フリーアナウンサー 立教大学を卒業後、1977年、テレビ朝日にアナウンサーとして入社。3年連続で「NHK紅白歌合戦」の司会を務めるなど、NHK+民放全局でレギュラー番組の看板を担った。テレビ朝日「報道ステーション」で12年間キャスターを務め、現在、再び自由なしゃべり手となる。2019年4月、立教大学経済学部客員教授に就任。 ----------
フリーアナウンサー 古舘 伊知郎