「ソファの向きが決め手」 一級建築士が解説する、幸せな老後のための“部屋作り”
日の光や雨の音など外部刺激が脳を活性
3つ目は、「外とのつながり」。昼間なのに外の光を感じられない部屋や、カーテンで外の景色が見えないという部屋は避けたい。心身の健康を害する心配があるからだ。 実際、高原さんのもとに、日中からまったく日が当たらない賃貸物件に住む家族から「気分が落ち込む」という相談が寄せられたことも。 「暗い部屋というのは、将来にわたって性格に影響を及ぼすともいわれていますから、すぐに引っ越しをすすめました。それが難しい場合は、日光に近い光の照明に変えたり植物を置くなど、外の環境を感じる工夫が必要。 座ったときに外の景色が見られるような向きにソファを配置したり、外部からの視線が気にならない範囲でカーテンを開けることが望ましいです。ベランダに“縁側的”コーナーをつくるのもいいですね」 シニアにとっては、四季の移り変わりやその日の天気など、自然の変化を見たり感じることが脳へのよい刺激に。
今からやっておくべきPOINT
・パーソナルスペースをつくる 自分で好きに管理できる場所をつくることで、気持ちにもハリができ、お互いを尊重することもできる。 ・外とのつながりをつくる 時間や季節の移り変わりを感じる部屋に。また、近隣の人とも交流できる仕組み(縁側など)も大切。 ・家具・内装を変えるなら天然素材 木の家具や自然素材の寝具などは、心身に良い影響が。畳や、簡単に壁に貼れる天然木パネルも◎。 ・バリアフリーにしすぎない 年をとっても身体の機能を衰えさせないためには、多少の不便があったほうが筋トレになってよい。 ・「片付け」の定義を家族とすり合わせる どんな状態を「片付いている」と認識するかを共有。
終活はしすぎない!思い出は老後の潤いに
また、家具や内装を変える場合は、天然素材のものを選ぶのもおすすめだ。自然を感じられるだけでなく、、調湿機能に優れており、風邪をひきにくくなるメリットも。 「“終活”を理由に片付けを加速しすぎることにもストップをかけたいです。60代後半のある女性の例ですが、部屋をスッキリさせるために50代半ばから、部屋の物をどんどん手放し、家具もダウンサイズしたそうです。 ところが、持ち物を必要最小限にし、自分が思っていたとおりの部屋が完成したとき、彼女は思ったそうです。“なんだかむなしい”って。防災グッズしか残っていない部屋で、これから先の人生をどう過ごすのか想像すると悲しくなったと言っていました」 物が多すぎるのもストレスだが、趣味のグッズや思い出の品など、見ているだけでワクワクするものがなければ、潤いのある老後は過ごせない。 「子どもたちが親の家を片付けるときは、過保護にしすぎないことも大切です。両親が元気に暮らしているのであれば、少々の段差はすべて排除しなくてもいい。むしろ、家の中で過ごすだけでも運動になるような工夫があるほうがよいと思います」 例えば、洗濯物を干す場所が2階で大変そうだと思っても、足腰が丈夫なうちは、“筋トレ”と捉えてみる。 「年齢を重ねたからといって、物を減らすだけが正解ではありません。家具の位置を変えるだけでも、夫婦関係がよくなったり、ストレスが減ったり、“心地いい部屋だな”と思えることも。 どんなふうに年齢を重ねていきたいか想像して、末永く健康に暮らせる部屋づくりをしてください」 教えてくれたのは……高原美由紀さん●空間デザイン心理学協会代表理事、1級建築士。心理学・脳科学をもとに幸せな人生を送るための部屋づくりの法則を「空間デザイン心理学」として体系化。近著に『ちょっと変えれば人生が変わる! 部屋づくりの法則』(青春出版)。 取材・文/河端直子