「AIに脅威を感じていない」「真実はネットに落ちていない」朝日新聞と共同通信の現役記者が語ったノンフィクションの強み
テーマは何気ない出来事の中に落ちている
武田 三浦さんはいつもどうやってテーマを見つけているんですか。 三浦 僕が借りている盛岡のアパートにはそもそもテレビがありませんし、出張先のビジネスホテルにあってもまず見ません。本は確かによく読みます。あと、人と会ってとにかく話します。僕はわりとお喋りで、3時間ぐらい1つの事柄について喋る時がある。3時間ぐらい喋れるテーマは経験則上、1冊の本になり得る。つまり本を書くという行為には、それぐらいの知識と熱量が必要なんだと思うんですよね。 武田 その熱量を持てるテーマがあるかっていうことでもあると思います。 三浦 そうですね。テーマには、ある日ばったり会うんですよね。『涙にも国籍はあるのでしょうか』でもある日偶然、モンゴル人の青年と酒を飲んでいた時に、「そういえば僕は学生時代に震災のボランティアをやっていて、外国人の死亡者数って今もわからないみたいなんですよね……」と言われて、「そんなことないだろ」っていうところがスタート。ここで「おかしい」と思うのは、職業的な勘ですよね。そのひっかかりがはじめの一歩になって、物語が先に進んでいくんです。地方の支局にいると、記者は何でも取材しますよね。市町村の選挙も、雪かきによる事故も、育児の問題もお祭りの取材もやらないといけない。実はその中に書くべきテーマの糸口がたくさん眠っている。僕は今年50歳になって体力も集中力も徐々に落ちてきていますが、そういうものに出会ったときに反応できる感受性や反射神経は落とさずにキープしていたいなと思っています。あと、僕は人に取材したりしたら、必ずその日のうちに取材録音をもとにメモを作成しています。だから、まだまだ世に出していない何百人単位分のメモがある。これは初任地の仙台総局で大先輩から教わった習慣で、ノンフィクションを作っていくうえで、本当に感謝しています。 武田 そういう人がいたんですか。でも、納得する面もあって、三浦さんの刊行スピードって、まるでビートルズがアルバムを出すのと同じぐらいのハイペースですよね。三浦さんが普段、どういう生活をして、執筆時間を捻出しているのか気になります。 三浦 朝5時に起きて10時までの5時間が執筆の時間です。朝の5時間は聖域ですね。10時からは通常の新聞記者としての仕事。夜8、9時までは新聞記者としての生活をして、夜は早く寝て、翌日はまた朝5時に起きて……の繰り返しです。 武田 いや、すごいですね。365日休みなくそれを続けているわけですもんね。三浦さんのような人がいるから救われている記者は多いと思います。朝5時から執筆するのはなかなか実行できないですけど、業界としてシュリンクしていく中で、自分の道を貫きながら、しかもクオリティの高い作品をずっとコンスタントに出し続ける人がいるというわけで、まだまだ何か自分もできることがあるんじゃないか……と。 【もっと読む】『現金3400万を残して孤独死した女性、震災で亡くなったフィリピン人…“名もなき人”の足跡を取材した現役記者が語る』では、取材の困難さなどについて紹介しています。