80年代はシティポップだけじゃない! 音楽評論家・田家秀樹&スージー鈴木が迷わず選ぶ「殿堂入りすべきアーティスト」
田家 やっぱり拓郎さんかな。 スージー ですよね。僕もこの話の流れで言うと、吉田拓郎です。世の中に残した功績が語られていないというギャップの度合いは吉田拓郎が一番大きいと思います。あれだけ多くの人にギターを持たせて、あの歌い方を発明して。 今日もここに来るときに「春だったね」を聞いてきたんですけど、よく「字余り唱法」っていわれるじゃないですか。メロディの音符に言葉を詰めるということを発明したこともそうなんですけれども、普通の若者が当時、日常会話で喋ったことをメロディに引き寄せてる。これがすごいなと再確認して。 田家 自分でメロディを書いているからああいうふうになったっていうことでしょうね。 スージー 一般的にボブ・ディランの影響といわれてますけど、それがあったとしても、あのときにディランをちゃんと自分のものにしてるのがすごいし、ディランの写真を見てハーモニカホルダーを自作したというエピソードもすごい。かつ、日本語の若者の日常会話をメロディにぶっこんだのもすごい。僕も第1回受賞者は吉田拓郎です。生きてらっしゃるうちに届けたいです(笑)。 田家 シティポップが再評価されたように、吉田拓郎の再評価の気運が高まることもあるでしょうね。 スージー そうですね。だから僕が心がけているのは、シティポップブームが起きたらそれを否定するわけじゃなく、うまく便乗して別の話をするっていう(笑)。桑田佳祐に便乗して、キャロルの矢沢永吉のボーカルの話をするとか。あいみょんから浜田省吾を経由して吉田拓郎を引きずり出してくるとか。 80年代の音楽の多くの部分は、吉田拓郎が地盤を作ったんじゃないかと考えています。吉田拓郎が土地を作って、井上陽水が耕して、ユーミンがちょっとおしゃれな部屋をデザインし、桑田佳祐がでっかいビル建てる、みたいな。その地ならしは吉田拓郎がやってますよね。 田家 そうですね。ブルドーザーみたいな人です。 スージー だから、第1回殿堂入りは吉田拓郎に決定ですね! *後編⇒佐野元春、浜田省吾、中島みゆき、サザン...音楽評論家・田家秀樹&スージー鈴木が語り継ぐ「80年代に格闘した挑戦者たち」 ●田家秀樹 (たけ・ひでき) 1946年、千葉県生まれ。音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、ラジオの音楽番組パーソナリティー。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者になる。文化放送「セイ!ヤング」などの放送作家、「レタス」(サンリオ)などの若者向け雑誌編集長なども経験。放送作家としては、民間放送連盟賞ラジオエンターテインメント部門で最優秀賞(2001年)や優秀賞などを受賞。著書に『風街とデラシネ 作詞家・松本隆の50年』、『オン・ザ・ロード・アゲイン 浜田省吾ツアーの241日』など多数。 ●スージー鈴木(すーじー・すずき) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。音楽評論家。小説家。ラジオDJ。bayfm『9の音粋』月曜DJ。BS12『ザ・カセットテープ・ミュージック』出演。著書に『中森明菜の音楽1982-1991』『桑田佳祐論』『EPICソニーとその時代』『平成Jポップと令和歌謡』『恋するラジオ』『80年代音楽解体新書』『いとしのベースボールミュージック』『イントロの法則80s』『サザンオールスターズ1978-1985』『1984年の歌謡曲』『1979年の歌謡曲』『弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる~OSAKA MOTHER'S SON 1980~』など多数。 ■『80年代音楽ノート』 田家秀樹著/発行:ホーム社 発売:集英社/1870円(税込) 田家秀樹×平野悠(ライブハウス「ロフト」創業者)のトークイベントが6月5日に開催! 詳しくはコチラ 取材・文/永堀アツオ 撮影/三浦麻旅子