80年代はシティポップだけじゃない! 音楽評論家・田家秀樹&スージー鈴木が迷わず選ぶ「殿堂入りすべきアーティスト」
ーースージーさんは『EPICソニーとその時代』をはじめ、『80年代音楽解体新書』『サザンオールスターズ1978-1985』『1984年の歌謡曲』など、80年代の日本の音楽にまつわる著作が多数あります。 スージー そうですね。でも最近、仕事をいただくときに、「80年代ってシティポップブームでしたよね? クリスタル族で、今よりもバブルでよかったですよね」って言われることが多いんですけど、時代錯誤も甚だしいですよね(笑)。明らかな歴史改ざんが行なわれてて。ちょっと待てと。 田家 僕もまえがきで触れましたけど、「80年代はシティポップ全盛だったんでしょ」って言われることが引っかかっていて。確かにこれだけの月日が経って、あの頃の音楽が再評価されていること自体は素晴らしいと思うんですけど、当時は違ってたんだよ、それだけじゃなかったんだよっていうことを言っておかないと、当時苦労した人たちも居心地悪いんじゃないかなと思って。 スージー 同感ですね。僕もいろいろなところで「はっぴいえんど中心史観」っていう言葉をよく使うんですけれど、今の音楽のちょっとマニア向けの雑誌は、シティポップや山下達郎、はっぴいえんどを過度に取り上げてると思っていて。はっぴいえんど周辺のことを語れば知的に見られるということがあるからだと思うんですけど、僕は少し違和感を抱いていて。 例えば、音楽雑誌で「70年代アルバムTOP50」という特集があると、はっぴいえんど『風街ろまん』やシュガーベイブ『ソングス』、細野晴臣『トロピカル・ダンディー』ばかりが上位を占める。で、サザンオールスターズ『熱い胸さわぎ』やキャロルは入ってなかったりする。ある意味では吉田拓郎(当時はよしだたくろう)『元気です。』が1位でもいいんじゃないかと思うんですけど。 とはいえ、実は僕はもともとナイアガラマニアではっぴいえんど大好きだったので(笑)、その反動で吉田拓郎に出会うのが遅かったんですよ。今から10年ぐらい前です。 田家 ナイアガラマニアだったの? スージー 大好きですね。だから、近親憎悪みたいな感じなんですけど(笑)。吉田拓郎『伽草子』(おとぎぞうし)を聞いたら、こんなにかっこいいのになんで語られてないんだろうと思って。田家さんの本を参考にして聞き直したのが10年前ぐらいです。知らなかったです、こんなに良かったことを。 ■吉田拓郎が80年代音楽の地盤を作った 田家 拓郎さんはね、音楽ジャーナリズムなんて言葉がなかった70年代という時代の被害者ですよ。「俺はフォークじゃない」って言い続けているように、彼の音楽の始まり方や趣味嗜好、ずっとやってきたものをたどれば、フォークじゃないんですよ。 でもあの時代に自分で作って自分で歌ってギターを弾いてれば、みんなフォークにされちゃった。歌謡曲、演歌、フォークっていうカテゴライズしかなかったので、その中に押し込められて。しかも彼は派手でしたから、やってきたことが。 スージー 派手だし、かわいい顔してるし、かっこいいし、面白いし。そこで損した感じはありますよね。 田家 風雲児扱いされちゃって。騒ぎを起こす人みたいなレッテルを貼られてしまった、メディアの最大の被害者ですから。スージーさんがやっていらっしゃるような方法で、拓郎さんの楽曲をきちんと1曲ずつ、コード進行やリズムを分析して語っている人はいないんですよ。