「カブリ気味だ……」なんてたまにエンジンがグズるのもまた魅力!? ロータリー乗りは「エンジンの扱い方」もマスターすべきだった
ロータリーエンジンは被りやすい!?
ロータリーエンジンは、点火プラグがかぶりやすく、失火してエンジン始動が難しくなる場合があるという。その要因は、いろいろ考えられるが、そのひとつはロータリーエンジン特有の機構による特徴にあるだろう。 【画像】たった44台しか販売されなかったロータリーエンジンを搭載したバスがあった ロータリーエンジンは、三角形をしたローターが繭型をしたハウジングの内側を回転して稼働する。ローターとハウジングの隙間にできた燃焼室は、回転しながら、吸気/圧縮/燃焼/排気を行う。回転しながらなので、燃焼室はハウジングの内側を移動しながら燃焼に至るため、燃焼温度がレシプロ(ピストンがシリンダー内を上下動する)エンジンに比べ、低いとされる。 燃焼温度が低いことによって、かつて、1970年代の排出ガス規制への対応当初は、窒素酸化物(NOx)の排出量が少ないことから、世界の自動車メーカーが注目したほどだ。一方、燃焼温度が低いということは、ガソリンを燃やし尽くすのが苦手であることを示す。それが、炭化水素(HC)の排出量を増やしたり、燃費の悪化につながったりしている。 加えて、ハウジングの内側をローターが回転する機構のため、燃焼室形状は長方形になり、レシプロエンジンのピストン頭頂部のような丸型ではない。したがって、燃焼室の隅まで燃料を燃やし切るのが苦手だ。そこで、点火プラグを燃焼室に2本装備している。 以上の状況から、燃焼で混合気の燃料成分が残りやすく、それが点火プラグを湿気させ、失火が続くとかぶりにつながる可能性がある。 ふたつ目として、ロータリーエンジンはローターの回転による潤滑が必要なため、エンジンオイルがハウジング内に提供され、燃焼室にガソリンとエンジンオイルが一緒に存在し、それによってオイルが煤状になってハウジング壁面に付着する場合がある。 ことに、エンジンを始動してすぐ、温まらないうちに止めたり、クルマの使い方が市街地中心であまり高回転に回さなかったりするときは、混合気のガソリンも濃いめで、燃焼温度もあまり上がらなかったりすることから、煤の残留が起こりやすくなる。それによって、燃焼室の密閉性が落ち、圧縮比が下がって混合気の燃焼状態が悪化し、点火プラグが湿気やすくなることも起こるようだ。 点火プラグのかぶりまで起こらなくても、出力が足りないように感じたら、高速道路やバイパスをある程度高回転で走ると回復するケースもある。これは、ガソリンを燃やし切る運転状態になるからだ。 もともと、燃焼効率には課題を残すロータリーエンジンは、基本性能のほかに、使い方にもコツがあるといえるだろう。 2024年は、マツダMX-30のロータリーEVでロータリーエンジンが復活した。ところが、エンジンとモーターを併用するハイブリッド走行では、200kg以上車両の重い三菱アウトランダーPHEVに比べ燃費が悪いのも、ロータリーエンジンの燃焼効率の悪さが影響しているともいえるだろう。 ロータリーエンジンは、軽量小型で振動が少なく、毎回転燃焼できることから出力が高い。また、水素などガソリン以外の燃料への適応性があるなど、独特な利点をもつ。しかし一方で、世界の自動車メーカーが最終的に採用に踏み切らなかったのは、利点に比べ、克服すべき課題が多いからといえるだろう。
御堀直嗣