神戸泥沼7連敗にもブーイングが起こらなかった理由とは?
後半アディショナルタイムにFWウェリントン(31)がゴールを決めても、ボールを拾い上げ、一刻も早く試合を再開させようとする選手もいなかった。そのウェリントンは湘南ベルマーレ時代の2013シーズンをすべて1点差で食い下がりながらも6連敗で終え、J2降格を喫した経験がある。 就任2年目の曹貴裁(チョウ・キジェ)監督のもと、初めてJ1に挑むも厚い壁にはね返され続けたほろ苦い記憶。それでも指揮官は引いて守ることを選択せず、リスクを冒してでも前へ、前へと攻めて出るスタイルを貫き、若手が多いベルマーレの一丁目一番地とした。 チームが描くベクトルを信じたフロントも、降格しても曹監督を続投させた。翌2014シーズンのJ2を独走で制した源となった「湘南スタイル」はチームのアイデンティティーとなり、前代未聞の誤審をはねのけて浦和レッズに逆転勝ちした前夜でも鮮やかに発動された。ウェリントンは言う。 「勝たなきゃいけない、という責任感が逆に自分たちのプレッシャーを大きくしているかもしれない。ヴィッセルには力があるので、いい意味で力まないように、プレッシャーを感じすぎないように、という精神状態も必要だと思う」 6年前のベルマーレと比べて明らかに地力で上回っているのに、長く暗いトンネルに迷い込んでしまった。3年連続でシーズンの途中で監督が交代しているヴィッセルには、残念ながら追い込まれたときに一度立ち返る場所がない。山口やウェリントンが募らせる、もどかしさの理由がここにある。 無定見に映るオーナーのチーム作りの余波と言うべきか。昨年9月に一度解任されながら、リージョ前監督の電撃辞任とともに再登板した吉田孝行監督(42)も、泥沼にはまり込んだ現状に対して、けが人の復帰しか打開策をあげられなかった。 原因は選手たちではなくフロントにあることがわかっているからこそ、試合後にブーイングが起こらなかったのだろう。ひとつ勝てば流れが変わるが、白星を手にするまでのプロセスが見えてこない。降格圏ぎりぎりの15位に後退したヴィッセルは26日の次節、波に乗るベルマーレをホームに迎える。 (文責・藤江直人/スポーツライター)