種子代高くても「これなしで経営考えられない」…民間品種に賭ける農家たち
肥料、農薬などの「縛り」は求められず
2つの農業法人は、互いに情報交換する間柄だそうです。日本のほぼ真ん中の農業が盛んな地域で、競争力をつけるために民間品種が率先して使われているのは決して偶然とは言えないでしょう。特に、若い井狩さんや大規模経営のグリーンちゅうずにとって、新たな市場開拓を後押しする民間メーカーとの相性はよさそうです。 一方で、こうした民間の種子供給に対してはタネと一緒に農薬や肥料を「セット」で販売し、農家の自由度を奪うという批判が寄せられます。 これに対し、井狩さんも萩野さんもそうした「縛り」は今のところないと否定しました。逆に井狩さんは「こちらから『こんな肥料がきく』とメーカー側にフィードバックすることがある」と二人三脚ぶりを強調します。 豊田通商、三井化学アグロの担当者も「そうした縛りは求めていない」と断言。ただ、三井化学アグロのタネは当初、肥料卸の判断で肥料とセット販売されていたことがありました。しかし、現在は農薬を含めてそうしたセット販売はないそうです。「お仕着せではなく、自力で経営できる農家が、結果的に我々の品種を選んでくれている」とします。 種子法に関しては、両社とも「国に廃止を働きかけたわけではない」としますが、豊田通商の担当者は「行政と同じ土俵に立つことができるという期待はある」と明かしました。 種子法廃止はタネと肥料、農薬のセット販売を進めたい「外資」の求めだという主張があります。しかし、既に国内メーカーと米農家の“二人三脚”が少なからず進む中で、外資が入り込む余地はあるのでしょうか。実は多国籍企業、モンサントの日本法人である日本モンサントも「とねのめぐみ」という名のハイブリッド米を既に開発していますが、その展開について同社は「地域貢献の一環であり、日本での種子ビジネスは考えていない」と答えました。 種子法とダイレクトに結びつくかどうかは別にして、長い目で見て外資を含めた世界の動きと我々の食卓は無関係でいられないことは確かです。最後に、中南米のドキュメンタリー映画で描かれる種子をめぐる現状から、視野を広げて考えてみましょう。 ---------- ■関口威人(せきぐち・たけと) 1973年、横浜市生まれ。中日新聞記者を経て2008年からフリー。環境や防災、地域経済などのテーマで雑誌やウェブに寄稿、名古屋で環境専門フリーペーパー「Risa(リサ)」の編集長も務める。本サイトでは「Newzdrive」の屋号で執筆