【イベントレポート】大量監視時代を考察「黙視録」フィルメックスで初上映、監督は「“見る連鎖”が映画の核」
第25回東京フィルメックスのコンペティション作品「黙視録」が11月25日に東京・丸の内TOEIで上映され、監督を務めたヨー・シュウホァ、撮影監督の浦田秀穂が上映後のQ&Aに出席した。 【動画】映画「黙視録」海外版予告(他5件) 「黙視録」は2018年に「幻土」で第71回ロカルノ国際映画祭の最高賞に当たる金豹賞を受賞したヨー・シュウホァの新作長編。物語は幼い娘が失踪した家族のもとへ、彼らを監視した映像の入ったDVDが届くことから始まる。ある家族が巻き込まれる犯罪スリラーとして幕を開けながら、やがて現代の孤立と監視文化についての不可解な物語に変貌していく。 あらゆるところに監視カメラが登場し、高層住宅の向かいの住人の生活が垣間見えてしまう描写など、大量監視の時代における「見る / 見られる」という人間の関係性を考察した本作。ヨー・シュウホァは、その意図を「私が住んでいるシンガポールの状況を如実に現しています。非常に過密な住居事情で暮らしていて、窓を開けるとご近所の様子がわかる。日々、どのように暮らしているのか。お向かいの方も私のルーティンを把握していると思います」と明かす。 さらに自身の生活を顧みて「10分歩く間にも、たくさんのカメラを見ます。ご近所さんを見ている私を、ある意味、国が監視しているのか。見つつ、見られつ、見せて。その“見る連鎖”が映画の核となりました」と説明。「この現代社会では国だけではなく、企業にも常に監視されている。私たちもSNSなどでつながっている人を互いに見ていますよね。家族であれ、友人であれ、“スクリーン越し”の関係になっていて、イメージが本人よりも独り歩きしている。デバイスやそのイメージを通してリアルを感じる、かつてない時代だと思います」と続けた。 「幻土」に続き参加した浦田は、撮影のプランについて「監督はあまり画のことはおっしゃらない。芝居ができたあとに『このシーンはこういうものが撮れたら』とおっしゃるので、それから、私から提案して相談する形です」と述懐。ヨー・シュウホァは浦田からの指摘で撮影における指針に気付いたそうで「見ること。その行動についての映画。常に俳優が見られている視点で撮ること。それに気付いてからは撮影中、その観念を中心にして俳優を撮っていました」と振り返った。 監視カメラ自体を映した映像は、ロケの先々で実際にあったものを撮影。監視カメラに映し出される映像は、あたかも監視カメラで撮ったかのような映像に加工している。リー・カンション(李康生)演じる人物がスーパーのモニターで見る大量の映像について、浦田は「お金がなくカメラを借りられなくて。スタッフ全員のiPhoneを借りて、26台セッティングして、同時に回してます。スーパーが借りられる時間も迫っていて大慌てで撮りました」と裏話を披露した。 観客から背景がぼやける被写界深度の浅さについて指摘されると、浦田は「実はそんなに浅めにしてないんです。でも、とてもうれしい質問」と切り出し、「子供がいなくなるところは少し浅めにしてます。リー・カンションの2つ目のエピソードは、深度はすごく深い。そこから最後にかけて、深度を少しずつ開放して(浅くして)撮っているのは事実です」と答える。ヨー・シュウホァも「この映画は誰の視点で見ているか、誰が何を知っているかが重要になっています。加えて見えない部分も大事にしている。閉じ込められたような狭い空間の雰囲気を醸し出すのに浦田さんの撮影がとても効果的でした」と伝えた。 第25回東京フィルメックスは12月1日まで丸の内TOEI、ヒューマントラストシネマ有楽町にて開催中。「黙視録」の劇場公開は未定のため続報を待とう。