広がる波紋…なぜポルト中島翔哉はポルトガルリーグ再開もチーム合流を拒否したのか
プリメイラ・リーガでは練習再開に際して、すべての選手に新型コロナウイルス感染の有無を調べる検査を実施している。それでも全体練習の強度が徐々に上がり、公式戦再開へ向けて接触プレーなどが解禁されていけば、その分だけ見えざる敵の脅威にさらされるリスクも高まってくる。 すでにリーグ戦が再開されている韓国やドイツを含めて、世界中のサッカー選手たちが不安を抱えている。 53歳のFW三浦知良(横浜FC)が、3日の練習再開後に漏らした「自分が感染しているんじゃないか、感染させてしまうんじゃないか」は国境を越えて共通する本音と言っていい。 そして、実際に感染してしまった場合、同居する家族へ2次感染させる確率が必然的に高くなる。FC東京からポルティモネンセSCへ移籍する直前の2017年8月に入籍した、最愛の夫人が呼吸器系の不調を訴えている状態ならば、中島がリスクを取らない行動を選択したこともうなずける。 中島がサッカーより家族を優先させるのは、今回が初めてではない。新天地ポルトでデビューを果たした直後の昨年8月中旬。第一子となる長女の出産に立ち会うために一時帰国した中島は、宿敵ベンフィカ戦を含めたプリメイラ・リーガの第3節と第4節を立て続けに欠場している。 シーズンが始まった直後にベンチ外となった2試合とは、言うまでもなくこの時期を指す。中島は、9月5日のパラグアイ代表との国際親善試合(県立カシマサッカースタジアム)に臨む森保ジャパンに招集されていたが、日本に残らず、8月下旬に再びポルトガルへ飛び立っている。
現地時間9月1日のヴィトリア・ギマランエス戦に間に合わせるためだった。時差ぼけや長距離移動などが考慮されて無念のベンチ外となり、ホームのエスタディオ・ド・ドラゴンのスタンドで勝利を見届けた中島は慌ただしく再帰国。日本代表合宿に合流した直後に、こんな言葉を残している。 「出産は命懸けだと思いました。子どもが産まれる前も産まれた後も、ずっと一緒にいるのが家族だと思っています。僕にとって、どこをどう探しても家族よりも大切な存在はありません」 2024年夏までの5年契約を結び、契約解除金として8000万ユーロ(約98億7500万円)が設定された期待の新戦力が家族の事情でいきなり離脱する事態に、コンセイソン監督も理解を示していた。 「フットボールは人生においてとても大切だが、人生そのものではないし、もっと重要なものがある。ナカジマが人生のなかで重要な時間を過ごすために、チームから離れる許可を与えている」 夫人と長女がポルトガルに到着し、家族での生活をスタートさせた直後の昨年12月16日に行われたトンデラ戦では、中島はプリメイラ・リーガで2度目の先発にして初めてフル出場。その後も試合に絡む時間が増えてきたなかで、今年2月に出演したスカパー!の番組ではこんな言葉を残している。 「監督から『家族が来てからいいプレーをするようになった』と言われたんです」 過去の経緯を振り返れば、今回もクラブの許可を得た上で中島は自宅での個人練習に切り替えたはずだ。中断前の一戦となったリオ・アヴェ戦で5度目の先発を射止め、アシストを記録した中島を戦力としてカウントしはじめているからこそ不在は痛い。それでも、体調が思わしくない夫人とまだ9カ月の長女を大切にしたい中島の胸中を尊重するからか。指揮官は前日会見でこんな言葉も残している。 「ナカジマの不在については、クラブが最善の形で対処する。それ以外に何かを言うことはない」 自宅での個人練習が2週間あまりに及んでいる状況を考えれば、7月末までに残り9試合を戦うプリメイラ・リーガで中島が復帰することは難しいかもしれない。ただ2位のベンフィカと勝ち点1ポイント差で再開に臨んだポルトを取り巻く状況は、ファマリカン戦で喫した黒星で風雲急を告げつつある。
ポルトガルと日本とを慌ただしく行き来した昨夏の行動が物語るように、我を押し通すタイプに映る中島の内側には強い責任感が脈打っている。自らが下した決断とポルトが直面する苦境のギャップに思い悩むような事態を回避させたいからか。ポルト側はブラジル在住の代理人をポルトガルへ呼び、心のケアを含めた中島の今後へ、ともに対処していく青写真を描いている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)