世界的にも貴重な固有種・適応王者「ギンケンソウ」大阪で展示
祖先が海岸に流れ着き環境に適応して高山で繁殖
拡散・適応・進化の王者と呼ばれるギンケンソウ。キク科の植物で、緑の葉に細かい銀色の毛がびっしり生え、銀色の剣に見えるところから、漢字で「銀剣草」とも書く。ハワイの固有種だが、元々ハワイにはいなかった。遠い北アメリカ西海岸から海流に乗って流れ着いたキク科の3種類の植物が、ギンケンソウの祖先ではないかと推測されている。 キク科の植物は生命力が強い上、3種間の交配で雑種が生まれ、世代交代を繰り返すうちに、一段とたくまくさを身に付けていく。白い波が寄せては返す海岸線から、長い歳月をかけて標高3000メートル級の高地まで駆け上ったわけだ。久山館長は「ギンケンソウの銀色の装いにも意味がある」と話す。 「緑の剣という意味のグリーンソードというギンケンソウの仲間がいます。ギンケンソウも元々は緑の葉でしたが、銀色の毛を生やして高地の紫外線や寒さから身を守ることで、環境の厳しい高地でも生息できるようになったと考えられます」(久山館長) 3種の祖先から生まれたギンケンソウは、仲間を含めて約30種まで勢力を広げた。増えたのは種類ばかりではない。形態も樹木、低木、ロゼット植物、つる性など変化に富み、自生地も低地から高山まで幅広い。ハワイならではの多様な環境に応じて、さまざまに姿を変えて生き抜いてきた。拡散・適応・進化の王者にふさわしい底力だ。しかし、強いはずの王者が現在、絶滅の危機に直面しているという。
適応の王者を絶滅危機に追い込む新たな外来種
ギンケンソウ絶滅危機の大きな要因は、外来種の昆虫であるアリゼンチンアリだ。 「ハワイに上陸したアリゼンチンアリが高地まで侵入し、ギンケンソウの受粉を助けるハチを捕食してしまった。ギンケンソウも繁殖できなくなって個体数が減り、絶滅が危惧されています」(久山館長) しばしば誤解されがちだが、植物の適応力は個体の知恵や努力の成果ではない。世代交代を重ねてゆるやかに獲得されていくため、共生する昆虫がいなくなるなど生態系に急激な異変が生じると、植物はもろくはかない。ハワイ固有種の植物の多くは絶滅のおそれがあるという。咲くやこの花館ではギンケンソウをはじめ、ハワイの貴重な固有種を多数栽培している。 ギンケンソウは1990年開催の花の万博で日本に初お目見えし、話題を呼んだ。以来、同館が研究を重ねながら栽培を続けてきた。高山植物室で、鈍い銀色に輝く姿を楽しむことができる。久山館長は「地球から失ってしまってはいけない植物がたくさんある。ギンケンソウも、珍しいからという理由だけではなく、自然保護の観点から栽培展示に取り組んでいます」と話す。 はるかなる拡散・適応・進化の歴史と、歴史を寸断する絶滅の危機。適応力とは何か。ギンケンソウから学べることがありそうだ。詳しくは咲くやこの花館の公式サイトで。 (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)