「日本の未来は暗い」を疑え。コクヨ・バンダイに学ぶ“既存の枠”を壊す発想
企業はどう成長していくべきか
ただ、国内企業の多くが、いまや海外事業に活路を求めているのも事実だ。 飲食チェーンの中には海外店舗が国内店舗を上回る企業もある。例えば、ミスタードーナツは国内が約1000店なのに対し海外は1万店を超え、ユニクロを展開するファーストリテイリングも、海外の売上高が国内を上回って久しい。 日本は人口が減り、経済競争力が低下することが予想されているのだから、自然な流れと言えるだろう。 ただ、日本の現状も見方を変えれば可能性があるように、筆者は手法を変えれば国内にも十分成長のチャンスが残されていると思っている。 国内で持続可能なビジネスをするには「ボーダレス化」が有効だ。ボーダレスとは、ターゲットとなる顧客の年齢や性別を広げたり、ビジネスとエンタメの境界線をあいまいにしたりすることを指す。 成功事例をいくつか紹介したい。 玩具メーカー大手のバンダイナムコホールディングスやタカラトミーは、2023年度の売上高が過去最高を記録した。両社は海外事業も手掛けるが、子どもだけではなく、大人にもファン層の多い「ドラゴンボール」のカードゲーム(バンダイナムコHD)や、「ベイブレード」(タカラトミー)などで幅広い年齢層にユーザーを拡大している。 子ども向けの玩具メーカーが大人向けの趣味・雑貨市場に商品ラインをシフトするエイジレス戦略をとったことで、2022年度には、矢野経済研究所調べで約1700億円規模のハイターゲットトイ(大人買いを狙った高単価玩具)市場が形成されていることが判明している。 他にも、男性向けを女性向けに、個人向けを法人向けに、昼の商売を夜に、という「ボーダーレス」の発想から生み出されるビジネスはそれぞれ数百億~数千億円規模の市場を創造するインパクトが認められている(矢野経済研究所調べ)。
企業と個人も「ボーダーレス」に
個人と会社の垣根がボーダーレスに繋がり、新しいビジネスが生まれたユニークな事例もある。 大手文房具メーカーのコクヨは、2023年11月に「SAUNA BU(サウナブ)」というサウナグッズのブランドを立ち上げた。 なぜ、文具メーカーのコクヨがサウナビジネスを始めたかというと、恐らくはマーケティング戦略上の深い背景があったわけではない。 筆者がサウナ業界の関係者に聞いたところ、約8年前の2016年、コクヨ社員の「カワちゃん」(本名は川田直樹さん)が自分のようなサウナ好きの同志を会社で集めようと「コクヨサウナ部」なる社内部活を立ち上げた。個人としても、コクヨの社員としても、ひたすらサウナを巡り歩いていった。 その結果、いつの間にか社内外のサウナ好きの人たちと、個人間で、時には会社間による、一種のコミュニティーが形成されていった。 その後、面白いことには、「コクヨサウナ部」に入部したい、という志望動機で、コクヨの採用試験に応募する人が続出し、入社後も高いモチベーションで働く人材になっていったことで、「カワちゃん」も予期せぬ形で、コクヨの採用に貢献をしてしまったのである。 「コクヨサウナ部」を基点に集まってきた社内外のサウナ人脈により、実践的なビジネスとしての企画も作られていった結果、コクヨの新規ブランドとして「SAUNA BU(サウナブ)」が事業として立ち上がり、サウナグッズの開発、販売をどんどん推し進めるに至った、という次第である。 サウナ界隈では当事業の注目度は非常に高い。これは、まさに、個人と会社の垣根がボーダーレスに繋がり、新しいビジネスが生まれた強烈な事例だ。