米澤穂信の<小市民>シリーズ“長編完結作”など、スリル・切れ味満点のミステリ5選(レビュー)
二〇二一年、賭けビリヤードの極限までの緊張感を鮮やかに描いた「萬」で第五回大藪春彦新人賞を獲得した浅沢英。彼の長篇デビュー作が『贋品』(徳間書店)だ。 主人公の佐村は、亡父の友人の誘いに乗り、贋作計画への参加を決めた。メンバーは四人。目標金額は四十八億。ターゲットである香港のメガコレクター徐在への売り込みの際、彼は、徐在を欺そうとした人物の最期を聞かされ――見せつけられ――戦慄する。だが、途中下車はできない……。 佐村がずぶずぶと犯罪の深みに沈み込んでいく怖さがあり、同時に、彼が他人を陥れて操っていく様にも怖ろしさを感じる。そんな心理面での生々しいスリルに加え、贋作作成や真贋鑑定では先端テクノロジーを駆使していて、技術面でも興味深い。そんな物語が、大阪を起点に、香港や中国本土などを舞台にスピーディーに展開する。四人組の内部での関係の変化もあって、娯楽小説として極めて上出来だ。
二〇〇四年に始まった米澤穂信の〈小市民〉シリーズにおいて、著者が“長編完結作”と呼ぶ第四長篇が『冬期限定ボンボンショコラ事件』(創元推理文庫)だ。高校三年生の十二月、かねてより互恵関係にあった小佐内さんと歩いていた小鳩くんは、轢き逃げに遭って入院した。病床で彼は、小佐内さんが犯人捜しを始めたことを知る……。著者はその後、ベッドから動けない小鳩くんの治療の進行に交えて、中学時代に真相を突き止められなかった轢き逃げ事件(密室状況での車の消失)の回想を綴っていく。結果として読者は二つの轢き逃げ事件を重ねて読み進むことになる――手掛かりに基づく真相究明の切れ味を愉しみつつ、若さと苦さを感じる結末に至るまで。推理という行為や殺意の芽生えも掘り下げていて絶品。
日本ホラー小説大賞を受賞してデビューし、その後、日本推理作家協会賞も受賞した澤村伊智の新刊『斬首の森』(光文社)は、ある団体が森の奥の合宿所で進める“洗脳”から逃走した面々が主人公。森のなかで迷ううちに、一人が首を切断されて見つかった……。彼らの逃走劇は、ロジカルかつ奇っ怪な刺激に満ちていて満足必至。予備知識や先入観を排除して読みたい。
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