米大統領選、イーロン・マスクはなぜトランプを支援するのか。EV補助廃止、原油需要後押しでも期待するメリット
11月5日のアメリカ大統領選投票日まで2週間を切った。 トランプ前大統領が再選するのか、ハリス副大統領が勝つのか。両者の支持率はほぼ互角で、選挙の行方を左右する激戦州でも接戦が続いている。 【全画像をみる】米大統領選、イーロン・マスクはなぜトランプを支援するのか。EV補助廃止、原油需要後押しでも期待するメリット 選挙戦は、最後の最後までもつれ込む様相だ。 日本にとってはどちらの勝利が望ましいのか。日本総合研究所研究員の栂野(とがの)裕貴氏は、 「原油価格の観点から見ると、ハリス氏の政策のほうが原油価格を下押しする要因がそろっており、日本にとっては好影響」 と分析する。
「もしトラ」「もしハリ」でも原油生産増加
2021年以降、原油を中心とするエネルギー原料価格の高騰は物価高騰の主要因となってきた。いまや世界最大の産油国となったアメリカの動向は、世界の原油市場に大きな影響を与えている。 しかも、トランプ、ハリス両氏の環境・エネルギー政策は「180度違う」(栂野氏)。エネルギーの大半を輸入に頼っている日本にとって、大統領選の結果が日本の物価を左右する可能性が大きい。 その影響について、栂野氏は10月23日、「もしトラ」「もしハリ」両方の見通しに関する分析レポートを公表した。 原油価格を左右するアメリカ国内の原油需給の見通しについて、栂野氏は「トランプ政権になれば原油生産の増加ペースは加速するが、ハリス氏が勝っても増産は続くと考えられる」と話す。 「トランプ政権時代の原油生産量はコロナ禍を除いて右肩上がりだったが、その後のバイデン政権下でも増産は続いており、現在は過去最高の生産量になっている。しかも、2025年は過去最高を更新すると予測されている。したがって、ペースは異なるが増産自体は変わらないだろう」(栂野氏)
最大の違いは「需要」政策
両者の違いは、需要を押し上げるか押し下げるかだという。 「トランプ氏は(バイデン政権下で強化された)環境規制を緩和する。自動車に対する環境規制が緩和されれば、EVの普及が一段と遅れる公算が高い。そうなると、ガソリン車の需要が伸び、ガソリン消費が伸びる。また、インフレ抑制法によるEV購入補助が縮小される可能性が高く、当然ながらガソリン需要が高まる」(栂野氏) また、連邦政府の戦略石油備蓄を急速に積み増しするというトランプ氏の政策についても触れ、これも原油需要を押し上げる要因になると指摘した。 一方、ハリス氏の政策は需要を押し下げる方向になるという。 「EV化を推進する方針は(バイデン政権と)変わらない。選挙公約として公用車のEV転換を進めることも掲げているなど、全体的に原油需要を減少させる政策が多い」(栂野氏) 需給とともに重要な要素は地政学的リスクだ。特に中東で地政学的リスクが高まると原油価格上昇につながる。 「トランプ氏は現政権より中東に対する地政学的リスクをさらに高める発言や外交政策が多い。一方、ハリス氏はバイデン政権の政策を継続するため、この点についてはニュートラル(中立的)」(栂野氏) 以上3つの主要ファクターを比較し、栂野氏は「原油価格の観点で見るとハリス氏の政策のほうが価格低下に効く」と分析。これは貿易赤字を縮小する観点からも重要な問題だと指摘した。 「原油価格は日本にとって最も重要な問題の一つ。原油の大半を輸入に頼っているため、原油価格が上昇すると、その分国民の所得が海外に支払われることになるからだ。足元でも、毎月約1兆円が原油・石油製品の輸入費として海外に支払われている。その点では、ハリス氏当選のほうが日本に良い影響を与える」(栂野氏)