情報教育の現場から最新の知見が集まる――New Education Expo 2024
まずは教員から~リーディングDXスクールの取り組み~
続いて、相模原市立中野中学校の取り組みが紹介された。同校は2021年度(令和3年度)にグーグルの事例校に認定され、2023年度は文部科学省の生成AIパイロット校として、生成AIの導入に取り組んでいる。 同校 総括教諭の梅野哲氏は、生成AIを使った具体的な授業事例を数多く紹介した。まずシンプルな例として挙げたのは、冬休みの自由課題として出題した「ChatGPT」を使ったプロンプトの練習だ。生徒が探究したいテーマについてさまざまな角度から質問を投げかけ、プロンプトの書き方を生徒同士で共有し合うことで生成AIの利用率が向上したという。 この自由研究では生成AIの長所や弱点に気付く生徒も多かった。同じ課題でも質問の仕方次第で回答の内容が良くなったり、歴史上の事実に関する質問には間違いが多かったりと、通り一遍の質問に対する生成AIの回答はうのみにできないという感想を抱いた生徒の例が紹介された。
教員研修と模擬授業にも生成AIを活用
中野中学校では、職員向けの研修も定期的に実施。生成AIに生徒Aと生徒Bを設定し、議論をシミュレートする模擬授業のプロンプトを用意し、授業作りの参考にする例が紹介された。バドミントンの授業を想定した生徒AとBの対話を生成させることで、授業の中での問いのアイデアを入手できるという。 さらに、実用的な授業作りの例として、授業をシミュレートするプロンプトのテンプレートの例も紹介された。生成AIを教員に見立て、生徒が課題を解決できるようにサポートさせる。言葉遣いややり取りの順序などを事前に指定することで、授業作りの具体的な気付きが得られる。 生成AIを教育現場で活用する効果として、「生成AIの活用により、生徒の批判的思考力や問題解決能力が向上した」と梅野氏は語る。AIリテラシーを高めることが、主体的・対話的で深い学びの実現につながると梅野氏は見ている。
情報科がある生成AIパイロット校のユニークな授業事例
最後に山形県立酒田広陵高等学校の事例が紹介された。講演したのは同校に務める情報科教諭の湯澤一氏。同校は普通科、工業科、商業科、情報科の4学科があり、情報科は全国に19校しかない公立高校の情報専門学科の一つだ。同校も2023年の8月に生成AIパイロット校に指定されている。 湯澤氏はまず、生成AIを活用するためのガイドラインを作成し、保護者からの承諾を得るためにオンラインで承諾書を収集した。しかし、情報科以外の学科で利用承諾を拒否した保護者が5人いたという。生成AIのモラルに関する指導はできても利用はできないことになる。「今年度も承諾書を取り直しており、拒否した保護者には直接連絡して理解を深めてもらうなどのアプローチを考えている」(湯澤氏)。 授業の具体的も多く紹介された。中でも講演の聴衆の反応が大きかったのが、「生成AI読書感想文コンクール」だ。生成AIの出力のみで読書感想文を完成させる。本来は禁じられている宿題の代筆を、あえてやらせてみようという斬新な授業だ。課題図書は「走れメロス」。物語の内容は既知なのでハルシネーションのチェックがしやすく、対話の繰り返しで出力の品質を上げるプロンプトエンジニアリングが体験できる。生徒が作ったプロンプトは全て生徒間で共有させており、さらに知見を得やすくしている。 別の例では英作文の授業が紹介された。生徒が自分の英作文を生成AIに添削させた。授業時間内に添削まで終わらせることを目的としているが、教員はサポートを必要とする生徒の指導に集中できるほか、生成AIを使ってより発展的な作文に取り組む生徒も見られるなど、副次的な効果があったという。 情報の授業ではシステム開発のプロセスを学ぶために生成AIと対話した。生成AIをベテランのアプリ開発者に、問いかける側を高校生にそれぞれ設定し、対話を行う。IT技術者の考えを生成AIから引き出そうという試みだったが「こちらの期待に反して教科書レベルの答えしか出てこなくてやや残念」と湯澤氏。だが、普段以上に生成AIとの対話に生徒が取り組む姿勢も見られ、一定の効果は見られた。 最後に湯澤氏は、生成AIの活用における懸念点についても触れた。プログラムの例など、自分が理解できていない出力を安易に転用してしまう例が見られるという。逆にレポートや課題を丸写しする例はほぼなく、あってもすぐに分かるという。これは生成AIの出力だと生徒の理解を超える専門用語などが出てくるためで、出力を安易に転用してしまうという問題が、逆に不正の発見をしやすくしている。 生成AIの活用に迷っている間にも、生徒はどんどん使ってしまうのが現状だ。「難しく考えず、やってみないと始まらない」(湯澤氏)と、教員の校務での利用から今すぐ始めてみるべきだと訴えた。
文:岡地 伸晃=日経パソコン