なぜ“嫌韓”はネットから消えたのか…一瞬にして潮目を変えた“世界的な大難”とは
お茶さえない殺風景な部屋で
その流れが変わったのは2019年夏のことである。経済産業省が、韓国を「ホワイト国」から除外する政令を施行したのだ。半導体製造等に使われる日本の高水準のフッ化水素等の輸出に関し、手続きを厳格化することに。それまで韓国は信頼に値する、と考えられていたのだが、核兵器製造に転用できる戦略物資が行方不明であることが明らかになった。これについて、韓国政府から説明がなかったことが理由である。つまり、日本発の工業製品が北朝鮮を含めた核開発国に韓国により渡されていたとの疑念が持たれたのだ。 半導体製造が重要国策である韓国にとってホワイト国からの除外は大問題。そこで日本の経産省での会談に臨んだのだが、その時の韓国の官僚に対する扱いが嫌韓派からは拍手喝采だった。ニュース記事に登場した1枚の写真が話題を呼んだのだが、左側にはワイシャツ姿の経産省職員が2人、テーブルを挟んで右側にはスーツ姿の韓国産業通称資源省職員が2人。両者とも厳しい表情だ。 その後ろにあるホワイトボードには赤いマグネットで付着された「輸出管理に関する事務的説明会」と書かれた紙が貼られている。殺風景な物置のような部屋である。応接室ではまったくないし、お茶さえ置かれていない。この写真が嫌韓派からは絶賛された。「よくぞ経産省はここまで見下した態度を取れたものだ!」と。
ウイルスがもたらした停戦協定
反日政策を展開し続ける文在寅氏に対してはこの頃、嫌韓派は「今の反日は生ぬるい、もっとやれ! そしてさっさと国交断絶しようぜ!」といった論調になっていった。元々日本のネットは嫌韓派の発言力が強かったが、基本的には韓国大統領をバカにする傾向があった。それは「あだ名をつける」である。 廬武鉉氏は「ノムタン」、李明博氏は「あきひろ」、朴槿恵氏は「クネクネ」、文在寅氏は「ムンムン」である。しかし、2022年5月に就任した保守派の尹錫悦氏については「ユンユン」などのあだ名は目立たない。それは同氏が親日的な姿勢を見せ、日韓の未来志向を掲げたからである。嫌韓派は韓国大統領、メディア、世論が反日に振れれば振れるほど怒りの養分が増し、ネットで積極的に韓国批判を展開する。だが、尹政権下の韓国に対しては批判するネタがなかったのだ。 もっと言うと、2019年夏にあれほど盛り上がった嫌韓、そして韓国を嘲笑うムーブメントはこの5年ほどあまりない。最大の理由の一つは新型コロナウイルスである。何しろ、世界的なイシューになったため、嫌韓派も韓国に構っている場合ではなくなったのだ。となるとカウンターとしての親韓派も嫌韓派に対して言うことはなくなる。かくしてウイルスが両派の停戦協定をもたらしたのである。