ダイエットに成功したが…新しい「私」に苦悩 ルッキズムや自己責任論照射した舞台作品
劇団「飛ぶ劇場」(北九州市)の新作「新生物」は、「私は何者なのか」というシェークスピアも扱った問いに始まり、現代社会にはびこるルッキズム(外見至上主義)や自己責任論を照射した作品だった。 【写真】劇団「飛ぶ劇場」代表の泊篤志さん 40代半ばで体重が130キロある男性の八満と空地の2人が「己の未来を変えたい」とジムに入会し、ダイエットにいそしむところから物語は始まる。八満はせっかく見た目が変わっても、新しい「私」の存在が揺らぎ、苦悩する。周囲が自分を認識していたのは何か。見た目か、それとも内面か。そもそも内面を見ることはできるのか。自問の数々は観客をも問い詰める。 「私」が他人とのやりとりで実感できる社会の産物ならば、「私は何者か」という問いは私だけが考え、引き受ければいいものではないはずだ。だが、空地は「自分はね、最適を選択しないよね。ずっと惜しい」と漏らし、八満は深刻な状況に直面しても「だいじょうぶい」のひと言でのみ込もうとする。2人はちょうど「就職氷河期世代」や「ロスジェネ」に当てはまる。自己責任という価値観を内在化させた人物造形は立体的で、特に空地を演じた寺田剛史のまなざしの暗さが強く印象に残った。 作・演出を手がける泊篤志の戯曲は、現実社会で人々を縛る「鎖」を役者と一緒に揺さぶり、固定観念を緩める。それは本作にも通じる。「ロミオとジュリエット」の有名なせりふである「バラと呼んでいる花を別の名前で呼んでみても美しい香りはそのまま」と同じように、テーマが変わろうと作品が醸す「香り」は変わらなかった。 (佐々木直樹) ◇飛ぶ劇場「新生物」は6~8日、北九州芸術劇場で行われた。1月25日午後7時、26日同2時から、長崎市五島町のアトリエPentAでも上演。全席自由で一般前売り3000円など。当日は200円増し。問い合わせは飛ぶ劇場=info@tobugeki.com=まで。