【コラム】新時代のオリンピック。(渡邊隆)
パリ2024オリンピックが、数々の感動、印象、レガシーを残して幕を閉じようとしている。 「近代オリンピック、33回パリ大会は、すべての人々、地域、次世代に貢献する競技大会となって、新しく生まれ変わる」というミッションのもと、人類最大のスポーツの祭典で、革新的な多くの実証実験がなされた。 壮麗なチュイルリー公園とシャンゼリゼ通りを結ぶコンコルド広場。 フランス革命の舞台となった、現代のこの都市環境で、スケートボード、3×3バスケットボール、BMXフリースタイル、ブレイキンなど、さまざまなアーバンスポーツが開催された。 1900年の万国博覧会の会場として建造されたグラン・パレ。 この壮大なガラス屋根を持つ、優雅でエレガントな空間では、フェンシングがおこなわれ、フランスが誇るさまざまな美しい文化財とスポーツとの融合を、見事に完成させた。 あの幻想的な空間で、中世ヨーロッパの騎士たちが戦っているような錯覚さえ覚えた。 パリのシンボル、エッフェル塔の前には、ビーチバレーの仮設コートが設置された。 ボランティアとして関わった前回の東京オリンピックで、ラグビーではなく見たこともないビーチバレーの担当を命ぜられた3年前を思い出す。 臨海線ゆりかもめに乗って、潮風公園にある灼熱のビーチバレー会場に通った。 あの熱い夏がよみがえる。控室はテントの中で、高校生や大学生たちと一緒に過ごした夏休みが懐かしい。 僕たちの担当は、『ボールレトリバー』。 獲物(ボール)を回収する狩猟犬という意味の、忠実なボール回収係である。 選手たちの汗と砂にまみれたスパイクで、アウトになったボールを次のサーバーに手渡す係だった。 スリランカから運ばれた、厳選された小さな砂のコートの端に並べられたパイプ椅子に座り、支給されたペットボトルの冷水を2本椅子の下に忍ばせて臨んだ。 当時のボランティアチームで組むグループLINEには先週、エッフェル塔の下でおこなわれたビーチバレーのさまざまな写真が送られてきて、東京大会と同じ仮設スタンドの足場の下を通った当時の思い出に溢れている。 そして、ラグビー(セブンズ)や陸上競技がおこなわれた8万人を収容する巨大なスタジアム、スタッド・ド・フランス。1998年FIFAワールドカップの主会場として建設された。 持続可能性を重視し、かつ革新的な試みを取り入れたカラーはパープル。ラベンダーを思わせるこの色を、いくつかのトーンで配色しリデザインした。 イタリア、モンド社の特注素材で、スポーツにこの色を配すること自体が挑戦的であり、画期的である。フランスらしい、お洒落な感性に溢れている。 パリ2024組織委員会がリードする新しい時代の、新しいスポーツの在り方を提唱する、その強い意志を感じる。 1682年に建造されたバロック建築の代表作・ベルサイユ宮殿の、緑輝く美しい中庭では、馬術、近代五種がおこなわれた。広大なオランジュリー庭園や、噴水庭園、そこで伝統の馬術競技がおこなわれ、夢のような世界が広がっていた。 セーヌ川を船に乗っておこなわれた開会式なども、新しい時代を想像させる、自由で、先進性溢れる、新時代オリンピックの幕開けであった。 馬術のフランス代表、コランタン選手の言葉が言い得ている。 「すべての会場が魔法のように素晴らしい。このオリンピックは、スポーツにとって重要なレガシーになるだろう」 これから迎える新しい時代のスポーツの未来は、どんな世界が広がっていくのだろうか。 超スピードで変貌を遂げている現代社会において、既存スポーツの変革も、大胆に、この時代のスピードについていかなければ、子どもたちに見捨てられる。 ロサンゼルスオリンピックでは、フラッグフットボール、クリケット、ラクロス、スカッシュなどが採用され、新スポーツも続々と誕生している。そんな環境の中、旧スポーツが変革なしに生き残れるとは思えない。 eスポーツもいずれ、オリンピックの新競技に採用される日は必ずやってくるだろう。これだけ世界中の子どもたちの心を掴んでいるゲームが、時代の隆盛を歩むのは自明の理である。 これからの時代は美しい環境の中で楽しめる、オシャレなスポーツが求められるはずだ。カッコ良くなければ、子どもたちも憧れて、そのスポーツの世界に入って行かない。辛いだけのスポーツは、いずれ淘汰されてゆく。オリンピックの時だけの注目では不自然である。 競技場、練習場の環境、道具、ウエアなども、現代人の心に響く、美しく、オシャレで、ワクワクするようなエキサイティングなスポーツに、もっと大胆に変貌させる必要があるのではないだろうか。百年以上前に生まれた、さまざまなスポーツのルールに関しても、現代の選手と観衆が心が躍るルール改正も必要に思う。 このパリオリンピックが残した衝撃が、これからのスポーツの在り方を、今を生きる世界の人々に問いかけている。 (文:渡邊 隆)