ネコニスズ舘野はなぜ“赤ちゃん”になった?センス系だった落研時代を知るミルクボーイと紐解く
久々に会う友達との近況報告会をお笑いナタリー上で展開する不定期企画「よっ!最近どう?」第2回では、大阪芸術大学の落語研究会で出会ったネコニスズ舘野とミルクボーイの鼎談の場をセッティング。現在“赤ちゃん”としてお笑いファンに親しまれている舘野の活躍を、後輩のミルクボーイはどう見ているのか? メルヘンな撮り下ろし3ショットと共にインタビューをお届けする。 【写真】シャボン玉を作る赤ちゃん 取材・文 / 狩野有理 撮影 / 番正しおり ※取材は2024年12月25日に実施。 ■ ミルクボーイの憧れだった“狂四楼”先輩 ──お三方は落研の先輩後輩だったんですよね。 ミルクボーイ内海 舘野さんは大阪芸術大学の3つ先輩です。僕らが1回生のときの4回生で。 ネコニスズ舘野 じゃあ1年しか一緒じゃなかったんだね。 ──出会った頃の印象は? 内海 もう、“天才”です。 ミルクボーイ駒場 センスの塊。 舘野 あはははは(笑)。 内海 こんな先輩がいてはるんや、と思いました。落研では基本、3回生まで活動して4回生になったら“隠居”と言ってあんまり来なくなるんですよ。でも舘野さんはたまに来られていて。センス丸出しで。 舘野 ひけらかしに? ヤバすぎるでしょ(笑)。 内海 いやいや、カッコよかったんですよ。古着とかを着ていて、ダボっとした格好で。髪は今よりも短いですけど、長めでしたね。 駒場 高校まででは見たことのないタイプの人。「こんなおもろい人いるんや」って思ってました。 舘野 めっちゃうれしい……。 駒場 ほんまそうですよ。口数が多いわけじゃないけどしゃべったらおもろい、みたいな。 内海 落研に入るとそれぞれ先輩から名前をもらうんですけど、舘野さんは「狂四郎」で。 「狂」に「四」に、「郎」でしたっけ? 舘野 東家狂四楼ね。「ろう」は摩天楼の「楼」。 内海 よりカッコええやん!(笑) 先輩が付けてくれるということは、1年生の頃からセンスがあったってことが丸わかりだったんですよ。普通「狂四楼」なんて付けないでしょ! 舘野 確かに。駒場くんと内海くんは「五右衛門」と「こちょむ」だったね。 内海 狂四楼さんが「放課後にお笑いライブをやるから出ないか」と誘ってくれて、それで出たのが僕らの最初の舞台なんですよ。それがなかったら出ていないし、コンビも組んでないかもしれないです。 舘野 じゃあ、俺がミルクボーイの“祖”だ(笑)。 内海 ほんまにそうです。(同じ大阪芸大落研出身の)ななまがりとか空気階段もぐらがよく「ミルクボーイさんが学祭で面白かったから落研に入った」って言ってくれるんですけど、僕らが組んだのは狂四楼さんのおかげです。狂四楼さんがいなかったらミルクボーイが誕生してない。 駒場 全然“赤ちゃん”じゃないですよ。ほんまはおじいちゃんです。一番の元になってる。 内海 そんな人が最近“赤ちゃん”になったって聞いて、驚いていたんですよ。 舘野 でも自然な流れなのよ。赤ちゃんになったのは。 駒場 自然じゃないですよ。戻っていってますから(笑)。 内海 でも確かにこういう部分もありましたよね。ぶりっ子じゃないけど、「かわいい」と言われてモテてる感じ。おしゃれやったし。僕1回、家に行かせてもらったの覚えてます? ただおしゃれっていうだけで選んだ、めちゃくちゃ狭いけどコンクリート打ちっぱなし、ガラス張りのデザイナーズマンションに住んでて。 舘野 当時はモテたくてしょうがなかったんだろうな(笑)。 駒場 僕はこちょむのほうが狂四楼さんと仲いいっていうのにちょっと嫉妬してました。狂四楼さんとしゃべりたいって思ってましたね。野球家族(舘野が以前組んでいたコンビ)さんのときも、けっこう攻めた空気感のネタやってましたよね。 舘野 尖ってたね。僕は当時、エンジンコータローっていう「水曜日のダウンタウン」(TBS)の「スベり-1GP」チャンピオンと組んでいたんですよ。 駒場 閻魔様のネタ、今もめっちゃ覚えてます。あれ「キタイ花ん」(インディーズのバトルライブ)とかでもやってました? 舘野 やってた。 駒場 インディーズライブにも出て、オーディション勝ち抜いて。 内海 それで「こういうライブがあるよ」と教えてもらって、僕らも外の舞台に出ていました。 駒場 だから、僕らの道しるべなんです。 舘野 道しるべの赤ちゃん! ■ まっすぐな目で「赤ちゃんです」 ──そんな狂四楼さんが“赤ちゃん”になった経緯は? 舘野 さっき言ってくれたみたいに、ずっと「かわいい」と思われたいっていうのはあって、その究極で赤ちゃんになったんだと思います。かわいさを誇張したら、赤ちゃんだったっていう。 内海 一番素が出せる? 舘野 そうだね。だから「赤ちゃんです」とか言うの、まったく恥ずかしくないんだよ。 内海 普通恥ずかしいですよ。急に「赤ちゃんです」って言い出すのは(笑)。 駒場 目が全然揺らいでないですもんね。それが意外やったんです。設定に則ってやっている、赤ちゃんで現状を打破しようとしているんだと思いきや、まっすぐな目やったんで。しんどくないってことですよね? 舘野 しんどくないね。 ──いつ頃から“赤ちゃん”に? 舘野 2023年の8月です。 内海 あははは(笑)。はっきりしてるなあ。 駒場 じゃあ今1歳4カ月ですね。 ──ミルクボーイのお二人はどのタイミングで“赤ちゃん”を認識したんですか? 内海 野球家族さんのあとにネコニスズさんを組んでいるのは知っていたし、毎年「M-1」の動画とかでチェックもしていて、面白いなと思っていました。で、SNSかな? いつからか周りの芸人さんが「赤ちゃん、赤ちゃん」と言い始めて、「これはどういうことや?」と。狂四楼さんも赤ちゃんの絵文字を使ったりしていて、「どういうこと?」って意味がわからんかったです。 駒場 東京では浸透してるんですか? 舘野 街で「赤ちゃんだ!」って声かけられることもあるよ。でも「赤ちゃんです」ってやっているときに周囲の人がとんでもないものを見る目をしてる、とかもある(笑)。2人組の1人だけが知ってくれていて、もう1人の人が「赤ちゃん……?」ってなってることとか。 内海 浸透しだしているところなんですね。 舘野 そうだね。ちょっとずつ。 ■ 過去一番注目された「M-1グランプリ2024」 ──2024年の「M-1」ではネコニスズのネタがお笑いファンの中でも話題になり、追い風が吹いていましたね。 内海 すごかった。 駒場 (準決勝に)行った感じでしたよね。 舘野 行ったと思ったなあ。 内海 「M-1」の前に(西川)きよし師匠のライブでネコニスズさんと一緒になりましたけど、そのときも赤ちゃんネタでしたっけ? 舘野 あのときは「お年玉が欲しい」って歌うネタをやっていて、あれは“ちっちゃい子”。 駒場 赤ちゃんよりもうちょい大きいんや(笑)。 内海 でもきよし師匠のライブに来られるような年配の方にもめっちゃウケてたんで、ヤマゲンに言いましたもん。「ネコニスズとして仕上がってきてるね」って。 駒場 3年くらい前の「M-1」ではネタ飛ばして話題になってましたよね。 ──「M-1グランプリ2020」予選の「歌詞が飛んだよ」「エグいてぇ!」ですね。 内海 そのときは赤ちゃんじゃなかったんですか? 舘野 赤ちゃんじゃなかった。それのショックでこうなったかもしれない(笑)。でもミルクボーイは昔からずっとこのスタイルだから、一番カッコいいよ! ロックンローラーみたい。俺好きだから、ロック。ミルクボーイが「M-1」で優勝したとき、新幹線に乗っていて。絶対に情報を入れないようにSNSとかも全部見ずにいたんだけど、車内の電光掲示板に「ミルクボーイ優勝」の文字が流れてきて、うわ!と思った。ミルクボーイはスタイルを貫いていて、カッコいいし憧れる。 内海 でも、あのスタイルを1回やめてた時期もあるんですよ。先輩から「あれ面白いやん」って言われてもう1回突き詰めていった感じですね。 舘野 そうなんだ。でも赤ちゃんにもならずにさ。 内海 ただ、角刈りには手出してます(笑)。舘野さんに憧れてたので、僕も髪の毛伸ばして、かわいくしてたんですよ。 駒場 めっちゃ似てました、髪型。 内海 服とかも「どこで買ってるんですか?」って聞いたりしてましたね。狂四楼さんになりたかった。 ──「M-1」準々決勝のワイルドカードの結果が発表されたあと、舘野さんの「ワイルドカード投票してくれた方ありがと(赤ちゃんの絵文字)この期間ずと嬉しかた(赤ちゃんの絵文字)友達の芸人の言葉もずと嬉しかたよ(赤ちゃんの絵文字)」というXのポストにはちょっと泣きそうになってしまいました。「赤ちゃんうれしかったね、よかったね」と。 舘野 あはははは(笑)。11年くらい連続で今のコンビで出場しているんですけど、歌詞が飛んだとき以外は全然見られている感じがなくて。でも赤ちゃんになってからたくさんの人が見てくれるようになって、この「M-1」期間中は本当に楽しすぎました。 内海 エゴサーチするとき、どう検索するんですか? 舘野 「M-1 赤ちゃん」。 内海 「赤ちゃん」だけやったらいろんな赤ちゃん出てきますもんね。 舘野 「M-1 赤」でもやったことある。 駒場 自分が言われてるやつ逃さず全部見ようとしてるやん!(笑) ──ミルクボーイのお二人からしたら「あの狂四楼さんがようやく見つかった!」という感覚ですか? 駒場 そうですね。「赤ちゃん」も狂四楼さんのセンスの1つなので、落研の中で空気階段のもぐら、オダウエダ植田や僕たちが優勝させてもらって、ななまがりも「キングオブコント」や「THE SECOND」で注目されて、最後に赤ちゃんが来るっていうのはストーリーとしては最高ですね。 内海 最後は僕らを見つけてくれた、僕らを生んでくれた赤ちゃんに行ってほしいです。 駒場 「M-1」決勝に赤ちゃんがいるのを想像したらめっちゃおもろい。普通とは違った爆発の仕方すると思いますし。 舘野 行きたいね。 駒場 スベるとかないですよね? 舘野 赤ちゃんとして見てくれるからね。 内海 温かい空気になるんや。 駒場 「赤ちゃんやし、別に何しててもええか」みたいな。 舘野 そう思うと最強かもしれない(笑)。 ■ ミルクボーイから赤ちゃんに質問 駒場 赤ちゃんはなんで髪の毛伸ばしてるんですか? 赤ちゃんやったら短くていいじゃないですか。そのコントラストがいいんですけど、理由はなんなんかなって気になります。 舘野 これは、えとねー。 内海 赤ちゃん出た(笑)。 舘野 みんながしているような髪型で「赤ちゃんです」はさすがにちょっと、気持ち悪いじゃん(笑)。気持ち悪いビジュアルで「赤ちゃんです」のほうがまだ許せるかなっていうのがあって。 駒場 なるほど。確かに普通の髪型の人が「赤ちゃんです」はヤバいですね。 内海 芸名は「赤ちゃん」なんですか? 舘野 ううん。「舘野忠臣」。 内海 カッコええ名前やもんなあ(笑)。 駒場 今やっているネタは全部赤ちゃんですか? 舘野 全部赤ちゃん。 内海 赤ちゃんが作ってるんですか? 舘野 赤ちゃんが作ってる。 駒場 「M-1」のネタもそうですけど、赤ちゃんから舘野さんになる瞬間がおもろいですよね。声の感じとか。そこに狂四楼さんを感じました。 舘野 うわ、うれしい! 内海 赤ちゃんは今後成長するんですか? 駒場 「サザエさん」システム? 舘野 「サザエさん」システムだね。アニメみたいになろうとしてる。キャラクターでいたいから。 内海 何か参考にしてるんですか? 舘野 街にいる赤ちゃんは凝視するようにしてる。どういう動きなのか。 内海 (笑)。突き詰めてほしいです。 駒場 赤ちゃんが一番イジられてるのって「マルコポロリ!」(関西テレビ)ですか? 舘野 ああー、そうかもしれない。東野(幸治)さん。 駒場 あれでじわじわ来てますよね。 舘野 めっちゃそれがデカい気がする。東野さんが初めて、「何が赤ちゃんやねん!」とかじゃなくて「よしよし」みたいな、あやしてくれた(笑)。 駒場 認めてくれたんや(笑)。 舘野 でも気づいたんだけど、誰かが何か言ったとき、オウム返ししかしてないんだよ。特に面白いことを言ってるわけじゃないから、とんでもないスピードで飽きられる可能性がある(笑)。 内海 でも赤ちゃんはずっとかわいいですから。「嫌い!」とかも言いにくいですしね。 舘野 「赤ちゃん嫌い」って言うとそっちが悪くなっちゃう(笑)。 ■ 赤ちゃんの将来を想像してみる 駒場 僕、子供できて、初めてこの前息子と「M-1」を一緒に観たんですよ。2019年の様子も映って、それがパパやというのはわかっている感じなんですけど、将来舘野さんが赤ちゃんとして決勝に出て、自分の本当の赤ちゃんが観てたらどうですか? 舘野 「友達だよ」って言うのかな。 駒場 それ考えたらゾッとしました。「パパは赤ちゃん」っていうのが。 舘野 「世にも奇妙な物語」みたい(笑)。 駒場 スベったりしたら嫌やな、恥ずかしいなって子供ができてより思うようになったんですよね。 舘野 今は結婚してなくて子供もいないけど、未来を想像すると俺の子供はどうなるんだろう……。 内海 でも赤ちゃんの子供なんだから、ほかの子もみんな優しくしてくれるんじゃないですか? 舘野 そんな理解がある子いるかな?(笑) 駒場 そのときにはもっと歳いってますもんね。50歳とか。 舘野 それは不安。 駒場 まあそんなんは考えず、こっからはもう赤ちゃんで行くんですね。 舘野 そうだね。とりあえずバイト辞めたい。カラオケ屋の深夜帯の責任者だから。 内海 あはははは!(笑)バイトの人たちには赤ちゃんっていうのはバレてるんですか? 舘野 芸人も何人か働いていて、自分が働いてる時間帯の人たちは赤ちゃんを知ってくれているんだけど、驚いたのが、別の時間帯の人が俺が出勤したときに「赤ちゃん来た!」って言ってくれて。うれしかった。 駒場 赤ちゃんに対してヤマゲンはなんて言ってるんですか? 内海 確かに。赤ちゃんで行くことをまずヤマゲンになんて言ったんですか? 舘野 「赤ちゃんで行く」って伝えたら、「なんやねんそれ」ってなってた。でも最近、「赤ちゃんかわいい」みたいに言ってくれる人がいるから、相対的に「ヤマゲンがキモい」になってる。 駒場 捻れてますねえ!(笑) 舘野 ずっと戸惑ってはいると思う。「キモいねん!」って頭叩いてツッコむと「赤ちゃん叩いちゃダメだよ」みたいな目線になるから。 駒場 見ている人も乗っかってきてくれてるんですね。 ──「おもしろ荘」も優勝して、2025年は赤ちゃんが大爆発するかもしれませんね。 駒場 赤ちゃんイヤーですね。 舘野 ベビーブームだ! 内海 日本もそうなりそうですね。「赤ちゃんかわいい、かわいい」ってなったら、少子化にも効果がありそう。 舘野 日本をよくできるのかな? 内海 CMとか。 駒場 西松屋のCM。 舘野 西松屋のCMに俺が出てくるの?(笑) 駒場 やりたい放題ですよ。誰もまだやってないので。 舘野 赤ちゃん業界席巻。 内海 市場はデカいですから。子供の前での漫才はどうなんですか? 舘野 「赤ちゃんです」って言ったら「ああー!」リアクションしてくれる子供はいた。 内海 みんなを幸せにできるんや。愛されますね。 舘野 赤ちゃんをみんなが愛してるからね。 ■ プロフィール □ 舘野忠臣(タテノタダオミ) 1983年2月9日生まれ、群馬県出身。元ガスマスクガールのヤマゲンと2012年2月にネコニスズを結成し、2015年1月にタイタンに所属。2024年6月に「ツギクル芸人グランプリ」決勝に進出。「M-1グランプリ2024」ではコンビ最高成績となる準々決勝まで駒を進めた。2024年大晦日放送の「ぐるナイ年越しおもしろ荘」(日本テレビ)で優勝。 YouTubeチャンネル「赤ちゃん」 ポッドキャスト「ネコニスズのねえねえ、あのさ」 □ ミルクボーイ 1986年2月5日生まれ、大阪府出身の駒場孝(コマバタカシ)と、1985年12月9日生まれ、同じく大阪府出身の内海崇(ウツミタカシ)が2004年に大阪芸術大学の落語研究会で同級生として出会い、活動を開始。2007年7月に吉本興業の劇場「baseよしもと」のオーディションを初めて受け、正式にコンビを結成した。「M-1グランプリ2019」優勝。「第57回上方漫才大賞」大賞受賞。ツートライブ、金属バット、デルマパンゲと共に立ち上げた「漫才ブーム」で全国ツアーを開催している。