親中国家・オーストラリアがついに反旗を翻す! かと思いきや、途切れなかった「蜜月関係」
中国のオーストラリア財政界への浸透が浮き彫りになって以来、長らく親密な関係を築き上げていた豪中関係に亀裂が生じている。しかし豪・アルバニージ首相の対応は反中とは思えぬものだった。 【写真】オーストラリアと中国の途切れぬ「蜜月関係」 中国系住民の多いオーストラリア。近年オーストラリア財政界での中国資本の浸透は深刻な問題となり、政府は親中から反中路線へと舵を切ったかに思われた。しかし2023年以降の現アルバニージ首相の対中姿勢を見るに、両国の関係は未だ親密さを保っているようだ。中国研究者でありインドの国立大学研究フェローの中川コージ氏は『日本が勝つための経済安全保障――エコノミック・インテリジェンス』(ワニブックス刊)にて「中豪関係」について詳しく解説している。本書より一部を抜粋して紹介する。
親中から反中へ、さらに展開するオーストラリア
オーストラリアはもともと非常に親中的な国でしたが、近年、政策を転換し、中国への警戒を強めたことで豪中関係は悪化していました。そのきっかけはまさに経済安全保障の問題が中心でした。 在豪華人も多く、政財界に中国系住民たちが浸透しているオーストラリアでは、2005年頃から自由貿易協定交渉が進められ、中国からの幅広い投資を受け入れるとともに、資源国であるオーストラリアも多くの石炭などを中国に輸出してきました。そのため、オーストラリアの貿易における対中依存度は年々高まる傾向にありました。 さらにはオーストラリアの基幹インフラである電力会社やエネルギー分野における中国からの投資比率や、中国系企業による買収が増加。 特に電力会社に関しては、豪ビクトリア州の5つの電力供給会社をおさえ、南豪の送電会社の一部を中国国営企業の「国家電網公司」が運営するに至りました。それ以外の電力会社を所有するのも、香港企業「長江基建」と、中国資本に電力をほぼ握られる格好になりました。
在豪華人が財政界に深く浸透
また2015年にはダーウィン港の99年の租借権が中国企業・嵐橋集団(ランドブリッジ社)に売却されるなど、目に見えた「浸透」が警戒されるようになりました。 さらには豪国会議員に対する大規模な汚職事件が発覚。これにより、在豪華人がオーストラリアの政財界に深く浸透していることが改めて注目されました。 こうしたことがきっかけとなり、オーストラリア社会に、いかに中国当局の意図に基づく「親中的な政策の推進」や「親中的世論の形成」が行われてきたか、チャールズ・スタート大学教授のクライブ・ハミルトン教授が『サイレントインベーション』(邦訳『目に見えぬ侵略』、飛鳥新社)により明らかにすると大きな話題となり、オーストラリアの対中姿勢は一変することになりました。 オーストラリアの歴代政権は対中融和的であることが多く、特にボブ・ホーク政権、ケビン・ラッド政権、マルコム・ターンブル政権はその傾向が強く、中国の浸透も勢いを増していましたが、ターンブル政権は途中で対中姿勢を転換しました。 「対中貿易で利益を上げることよりも、国家の安全保障を最優先すべき」との方針を掲げ、2016年に外国投資審査委員会を強化し、中枢インフラセンターを新設。基幹インフラに相当する電力、水道、港湾関係などの施設に対する外資規制を強化しました。 2018年にスコット・モリソン政権になってからは対中強硬姿勢を強め、安全保障面においてもQuadの枠組みに積極的に参加、さらには米英との安全保障枠組みである「AUKUS」を創設するなど、経済・安全保障両面での中国対策を強化しています。2022年には政権交代があり、オーストラリア労働党のアンソニー・アルバニージ首相が就任しました。労働党は先に挙げた歴代「親中政権」時の与党ですが、アルバニージ首相は就任早々、来日して「Quad」会合に参加したほか、記者会見でも「中国との関係は困難なものだ」「変わったのは中国の方であり、我々は自らの信じる価値観を守るべきだ」と発言。オーストラリアの対中姿勢は、当面厳しいままとなることが想定されていました。