山崎怜奈が選ぶ、2023年のマイベスト「ブック」3冊
【2】藤崎沙織『ざくろちゃん、はじめまして』
SEKAI NO OWARIのSAORIさんの妊娠・出産・育児のエッセイです。私、妊娠・出産・育児に対して、考えることすら抵抗があるぐらい恐怖があったんです。心臓が体内にふたつあることが怖いし、数ヶ月にわたって血液を送り出すエネルギーを持続できる自信もなくて。 でも、この本を読んで、妊娠・出産という壮絶な体験を、こんなにおもしろく、豊かに書けるんだという尊敬の念が芽生えたんですよね。その瞬間、妊娠・出産・育児っていう経験はいいものだなと思えたというか。もちろんいいものだってわかっていたとしても、私は恐怖のほうが上回っちゃっていた。でも、妊娠・出産・育児でしか味わえない感情ってこんなにたくさん、本に詰まるくらいあるんだなって思いました。 芸能のお仕事をしていると、世間に比べて晩婚になりがちなんです。でも、周りの友人は結婚して、出産して育児をしている。それを見ているとやっぱり考えざるを得ないんですよね。そういう時、沙織さんがアーティストとしての軸、ひとりの女性、母親としての軸、それらをどう保ちながら、どうやって「自分」でいようとしてきたのかっていうことが書かれていて。 帯の「こんなに幸せなのに、幸せだと気づくのはなんて大変なのだろう」って言葉も、芯を食ってるように感じたんですよね。たしかに状況的に恵まれているし、生まれてきた子は天使のようだし、みんな自分を求めてくれてるかもしれない。でも、それが幸せだと思えない時ってきっとあると思うんです。そのないまぜの感情が言語化されていて感銘を受けました。5年ぐらいはキャリアが止まるなとか、周りにどう思われるかなとかって普通に考えるものだし、考えていいんですよね。そういうリアルな感情が、ここまで書いていいんだ!っていうくらい書かれています。 水鈴社/定価1,760円
【3】川上未映子「深くしっかり息をして」
川上さんの言葉を追えるということだけで、心がホクホクするし、私もこういうふうに日々の足取りや出会った感情を紡げたらいいなって憧れます。 私は10代の頃から、社会においてどういうふうに自分で自分の椅子を作っていくか、なおかつ、どうやって求められるような場所にその椅子を置きにいくかっていうことを、ものすごく考えながら働いてきたんです。もう本当に武装しているような感じですよね。しかも、その解き方もわかっていなくて。 でも、武装し続けるのも限界があるなとうすうす気づいていた。そんな時に、友達から、「怜奈はずっと戦い続けてるから、気を抜けるところを作ったほうがいい」って言われたんです。それで、本当にこの1年くらいでようやく気の抜き方を探して試せるようになってきて。戦闘体制が長かったからこそ、川上さんのエッセイからは、ゆっくり呼吸することもすごく大切なんだって思えるような安心感を得ました。まだまだ模索中ですが、人に委ねることなく、自分がどう生きたら幸せなのかを自分で決めていきたい。そのうえで、この本はおまもりのような一冊です。 マガジンハウス/定価1,760円
text_Aiko Iijima(sou) design_Ai Nonaka edit_Kei Kawaura