すべてイーロンの「計略どおり」、トランプ政権入りで「テスラ」が得られるものとは
マスク氏の「理想の未来」、とはいえ決算に見える課題
そもそもテスラによるサイバーキャブ発表イベントのタイトルは「We, Robot」だった。サイバーキャブそのものよりも注目を集めたのが、ヒューマノイド型ロボット「Optimus」の存在だ。 マスク氏はこちらも「車よりも安い」2~3万ドル程度で発売すると語った。Optimusはカメラ、バッテリーなど多くの部品をテスラ車両と共有しており、マスク氏は「自動運転車両とはすなわちRobot On Wheel(車輪が付いたロボット)だ」としている。 Oputimusを一般家庭向けに販売するのも、ある意味で人々を家庭内の仕事、たとえば掃除をする、食器を片付けるなどから解放(Libertize)するという意思の表れかもしれない。車の運転からも家事からも解放され、人々がより自分の時間を謳歌(おうか)するというのが、マスク氏が理想とする未来社会の縮図だとも言える。 一方で、黒字を計上したテスラの第3四半期決算だが、よく見ると自動車から得られる収入増はわずか2%で、エネルギーや貯蔵に関する収益が前年比で52%と大幅に伸びていることが分かる。エネルギー事業は車の生産と比べると収益効率が高く、全体の収入の伸びが8%に対し、利益が20%となっていることもその表れだろう。 テスラの第3四半期の車両生産台数は46万9796台、実際の販売台数は46万2890台と相変わらずほぼ在庫を抱えないビジネス業態で、2024年の総販売台数は180万台に達する見込みだ。ここに2年後とはいえ販売価格が3万ドルのサイバーキャブが加われば、少なくとも米国ではEVに関しては圧倒的な強さを維持することになるだろう。
どうなる、2人の“ビジネスマン”による国政
1億2,000万ドルもの資金を投じてトランプ政権の実現に賭けたマスク氏の狙いは、今のところ「当たった」と判断できる。特に宇宙開発に意欲的なトランプ氏のもと、スペースXが大幅な飛躍を遂げることも予想できる。 また、マスク氏の動きは他のメーカーにとっても有利に働く可能性がある。選挙中からシェールオイル、ガス掘削を推進し、ガソリン車両へのテコ入れに熱心だったように見えるトランプ氏だが、実際のところ、米国でシェール事業が頓挫したのはバイデン政権が掘削に制限をかけたからではない。シェール掘削に用いられるフラッキングという手法は環境にも悪影響だが、そもそもコストがかかりすぎて中東産の原油などと比べて国際的な競争力に欠けると指摘されている。 米国最大の自動車メーカーであるGMは、政府補助金込みで価格が2万ドルになる新型のシボレーボルトを計画しており、EV補助金を政府が打ち切るとなれば国内産業にとっても打撃となる。国内での電池工場建設への補助金も政府により行われている現状で、突然EV普及を差し止めるのも困難な状況だ。つまり、米国はガソリン車という選択肢は残しながらも、やはりEV化路線を進める方向に大きな変化は見られない可能性が高い。 マスク氏にとっては民主党を支持しても現状路線に変化はなく、あえて共和党に肩入れすることで極端なEVたたきを防ぐことができる。そのうえ念願だった規制緩和の動きを推進することができるという、まさにビジネス感覚でのトランプ支持だったのかもしれない。 しかし、2人のビジネスマンによる国政運営は、これからが正念場だ。極端な移民排除は低価格の労働力を失い、さらなる物価高やインフレにつながる可能性がある。また、中国と親密な関係を築いているマスク氏は、トランプ氏が提唱する中国製品への高関税政策に反対の立場をとることもあるだろう。さらにトランプ氏はメキシコ製品にも関税をと呼びかけるが、多くの製造業、テスラですらメキシコに工場を持っているため、反発をくらうことになる。 まだまだ未知の要素が多い新政権と、さらなる発展、そして人類を移動と家事のストレスから解放しようという野望を抱くマスク氏は、これからどのような4年間を迎えるのだろうか。
執筆:米国在住ジャーナリスト 土方 細秩子