平戸海（手前）を攻める高安

◇19日　大相撲秋場所12日目（東京・両国国技館） 　10歳も若い平戸海を相手に、34歳の高安が躍動した。かち上げから猛然と突き放し、めったに引かない平戸海をたまらず引かせた。 　「落ち着いて、よく見て攻められました」。4年ぶりに前頭2桁台に番付を下げた元大関が、上り調子の三役に完勝で5日目からの8連勝。母・ビビリタさんの63歳の誕生日に10勝目を挙げ、堂々の優勝争いだ。 　取組後のふろに入っている間に大の里に土がついた。これで1差。「あっ、そうですか。負けたっすか」。泰然自若。経験がそうさせる。 　何度も何度も苦い思いをさせられた。千秋楽まで優勝争いを演じたのはこれまで8度。直近では昨年秋場所だが、そのすべてで賜杯から見放されてきた。 　それでも、あきらめることなく試行錯誤しながら挑み続ける。あれほど熱心に続けていた場所前の出稽古もやめた。初日にピークを持っていこうとすると、持病の腰が悲鳴を上げるからだ。部屋には幕下以下の力士しかいない。そのかわり稽古内容をしっかりと考え抜いた。 　途中休場から再出場した夏場所は、9番の取組で7勝。2大関から白星を奪った。15日間皆勤できたらどうなっていたかと、存在感を十分に示してみせた。 　「伸び伸びやりたいですね。（終盤になるにつれ）どんどん体がね、動くようになってきたんでね。尻上がりによくなってるんで。一生懸命できるんじゃないかと思います」 　残り3日。優勝制度ができた1909年以降で、大関経験者が陥落後に初優勝を飾った例はない。苦しんできたその先には、歴史的快挙が待っている。