三谷幸喜が「背中を押してくださった」、戸田恵子が俳優になるまで
アンパンマンなど数多くの人気キャラクターの声優を経て、40歳を過ぎてから役者としてもブレイクした戸田恵子。2018年に三谷幸喜の構成・演出で発表した一人舞台『虹のかけら~もうひとりのジュディ』が、なんとアメリカ・ニューヨークの音楽の殿堂「カーネギーホール」で上演されることに。 7月には日本でも凱旋公演がおこなわれるわれる本作に、再び向き合う直前にインタビューが実現。制作の裏話やアメリカ公演にかける思いとともに、すっかり良きパートナーとなっている三谷幸喜との愉快な関係についても聞いた。 取材・文/吉永美和子 写真/バンリ
◆ 「ニューヨークは観に行く所としか思ってなかった」
──『虹のかけら』は、映画『オズの魔法使』で知られるジュディ・ガーランドの生涯を、彼女の付き人だったジュディ・シルバーマンの日記の朗読と、さまざまな名曲の生演奏、戸田さんの語りで綴っていくという、一人芝居とコンサートを併せたような舞台です。 私の還暦記念で三谷さんに作っていただいたんですけど、脚本ができあがったのが本番の6日前ぐらいだったんです(笑)。それで初演は四苦八苦したので、翌年リベンジで再演させていただきました。それを「カーネギー・ホール」の関係者がたまたま観て「これ、カーネギーでどうでしょうか?」とおっしゃっていただいたのがはじまりでした。ただカーネギーと言っても大・中・小のホールがあって、私は身の丈に合った小ホールにあたるワイル・リサイタルホールですけど(笑)。 ──60歳を過ぎてから、初めてニューヨークで芝居をする人生が来るなんて、想像できませんよね。 まったくですね。私はよくニューヨークに芝居を観に行ってるので、みんな「一度は(舞台に)立ちたいと思っていたんじゃないですか?」って言うけど、(芝居を)観に行く所としか思ってなかったんです。だから本当に、青天の霹靂でした。三谷さんも「本当に行くんですか?」みたいな反応でしたし・・・この前最初のミーティングをしたときも、まだ「やりますか? 本当にやるんですか?」って言ってました(笑)。 ──ニューヨーク公演用に、変えていくところはあるんでしょうか? プロットや音楽は、基本的に変わらないです。大変なのは、「カーネギー・ホール」がすごく規約が多いってことなんですよ。劇場じゃなくて音楽ホールだから、照明の細かい調整ができないとか、ステージ上の物はホールのスタッフに動かしてもらわないといけないとか。 ──相当な制約があるなかで、上演されるんですね。 ちょっと並大抵じゃない大変さですけど、それだけの価値がカーネギーにはあるってことなんだと思います。これをみんなで乗り越えて、はじめて立つことができる。だからやっぱり、特別なホールなんでしょうね。誰もができる場所じゃないっていう。 ──舞台に立つ前から、プレミア感が演出されているわけですね。ただ「制約を受けたうえで、さらに面白いものを作るのが、自分のやり方だ」と話す三谷さんの性格を考えると、そういう制限があればあるほど、燃えているんじゃないでしょうか? 三谷さんとはこれまでも「え? ここまで稽古してきたのに、これができないの?」ということにいろいろ遭ってきたんですけど、そのたびにそれを逆手に取って「こっちの方が良かったね」と思うぐらいのことをしてくださるんです。やっぱりそこが、天才たるゆえんですね。だから今回もまったく心配してないし、良いバージョンが生まれるんじゃないかと思います。