世界はまだこの「重大リスク」に気付いていない...イスラエルとヒズボラの「戦争が迫っている」 中東専門家が警告
<レバノンを拠点とする武装組織ヒズボラとイスラエルの間で、このままでは6~8カ月のうちに戦争が勃発。その要因を徹底分析>【スティーブン・クック(米外交問題評議会上級研究員)】
レバノンのイスラム教過激派組織ヒズボラとイスラエルの間で、今後6~8カ月のうちに戦争が勃発する可能性が高い。 【動画】ISの奴隷にされた援助ワーカーの女性ミュラー その根拠をできる限り明確にしておこう。この点に関する今までの分析はほぼ一様に、ヒズボラとイスラエルは共に戦争を望んでいないと結論付けてきたからだ。 これらの分析は、現状を根拠に未来を予測している。だが誰もが知るとおり、中東情勢は極めて流動的に変化する。アナリストや関係国の政府関係者は自らの仮定を再検討し、予測をアップデートすべきだ。 これまでヒズボラとイスラエルは小競り合いを続けてきたが、全面戦争には至っていない。一見して自制しているように見えるものの、両者が戦争を望んでいないというわけではない。むしろさまざまな要因のために、瀬戸際で開戦を踏みとどまっているのが実情だ。 歯止めになっていると考えられる要因は、いくつもある。例えばイラン指導層の戦略的な計算、中東戦争の回避を目指すアメリカの思惑、パレスチナ自治区ガザでの戦闘の経過、そしてアメリカの国内政治。だが、これらの要因が今後も紛争勃発を防ぐと当てにしてはいけない。事実、こうした制約は失われつつある。 ヒズボラが戦争を望んでいないという主張の前提には、イランの意図に関するさらなる主張がある。イランが支援するヒズボラとイスラエルとの衝突を、イラン自身が避けたがっているというものだ。 この2つの主張を支える論理に、もっともな点はある。ヒズボラはイラン革命防衛隊の遠征部隊として活動し、シリアのアサド政権による反体制派の弾圧や、イランが後押しするイラクの民兵組織への協力、イエメンのシーア派武装勢力フーシ派への訓練などで重要な役割を果たしてきた。 しかし、ヒズボラには革命防衛隊の一部門である以前に、イランの抑止力として機能するという役割があった。その点は今も変わらない。 ヒズボラと、同組織が保有しているとされる10万発以上のロケット弾は、イランの報復能力を支えている。イスラエルやアメリカがイランの核開発の拠点を攻撃すれば、ヒズボラの兵器がイスラエルの人口密集地に撃ち込まれ、壊滅的な被害を与えるだろう。 イランの指導層は打倒イスラエルという目標より、体制の存続に力を入れている。ヒズボラへの支援で得た抑止力を失ってまでイスラエルを攻撃しようとは考えていない。 それでも、イランがヒズボラへの手綱を緩める可能性は十分にある。ヒズボラ指導者のハッサン・ナスララが1月初めに明言したように、イランは中東における武装組織のネットワーク「抵抗の枢軸」の育成に膨大な時間とリソースを投じてきた。 この枢軸には、ヒズボラ以外にイスラム組織ハマスもいる。イスラエルはハマス指導者を捕捉、殺害し、同組織を無力化する決意を固めている。 そうなる可能性が現実味を帯びれば、イランとしてはハマスの敗北を受け入れるより、ヒズボラへの制約を解き放つ可能性が高い。そのXデーは近づいているように思える。 イランがヒズボラを抑え込んでいたとすれば、イスラエルについて同様の役割を果たしてきたのはアメリカだ。米バイデン政権はガザ戦争の勃発以来、2つの点について一貫した姿勢を取ってきた。1つは、ハマスは敗北しなくてはならないということ。もう1つは、ヒズボラとイスラエルの戦争は回避しなくてはならないということだ。 ジョー・バイデン大統領はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に対し、レバノンを戦争に巻き込まないようクギを刺してきた。米政権は、ヒズボラとイスラエルの間に戦争が始まって中東全域に飛び火すれば、アメリカとイランの軍事衝突は不可避だと考えている。