レジェンドバンド・クイーンの“絶頂期”…民衆をとりこにする圧巻のステージに感服<QUEEN ROCK MONTREAL>
世界でも屈指の人気を誇るバンド・QUEEN(クイーン)が、1981年にカナダ・モントリオールで行った伝説的ライブの模様を収めた映画「QUEEN ROCK MONTREAL」がIMAX Enhancedクオリティにデジタルリマスターされ、5月15日に配信された。同ライブではクイーンが「ウィ・ウィル・ロック・ユー」「愛にすべてを」など今も愛される大ヒット曲を次々と披露し、爽快なパフォーマンスを繰り広げている。そこで今回、音楽をはじめ幅広いエンタメに精通するフリージャーナリスト・原田和典氏が、クイーンの魅力を独自の視点で解説する。(以下、ネタバレを含みます) 【写真】レジェンドバンドのレジェンドたる所以…!圧巻のステージに感服 ■洋楽ロックバンドの最高峰 ものすごく分かりやすい多数決のページで「みんなのランキング」というサイトがある。芸能人や著名人についても独自のランキングを発表しているのだが、ある日の募集テーマは「洋楽ロックバンドランキング!おすすめの海外ロックバンドは?」。この尋ね方がいいと思った。ブリティッシュ・ロックやクラシック・ロックなどの言葉を使ってアンケートを募ると途端にオタク度が増すし、専門的なファンの投票の割合も高くなっていくに違いない…と、オタクな私が書くのも何なのだが、とにもかくにもランキングの1位に、ザ・ビートルズやオアシスなどを圧して選ばれたのはクイーンである。 そのサイトには読者が一票を投じた理由についても紹介されているが、目立つのは「色々聞いたら知ってる曲ばかり」「クイーンの曲はどこかで聴いているような曲ばかり」といった意見。どこかで耳にして良いなと思っていた曲が、「ああ、この人たちが歌っていたのか」と分かったときの喜びは、こなすのに時間のかかった難しいゲームを見事クリアした時のようなスッキリ感がある。親しみやすく、覚えやすく、しかも耳から離れないのに、飽きさせず、何度でも聴きたくなって、最初はフレディ・マーキュリーの情熱的な歌声だけに心をわしづかみにされていても、そのうちどんどん耳の視野(聴野)が広がって、ブライアン・メイのギター、ジョン・ディーコンのベース、ロジャー・テイラーのドラムにも関心が高まっていく。そんな「一生モノ」のバンドこそがクイーンである。 もちろん、“フレディ一代記”というべき2018年制作の大ヒット映画「ボヘミアン・ラプソディ」の余韻が体にまだ残っているというファンも多いはず。私もそうだ。この映画、あふれんばかりのリスペクトがあった。そして功績を後世に伝えたいという熱い思いも。役者たちが扮(ふん)するパフォーマンスと音源のシンクロ具合に「技術はここまで来たのか」と口をあんぐりさせられ、野外フェス「ライヴ・エイド」でのシーンを、バリバリの絶好調であるかのようにあんなにドラマティックに演出するあたり、「おお、この脚色もまた映画ならではだよなあ」と妙な感銘も受けた。 では、偽りのない“絶好調”とは何か。それを目の当たりにさせてくれるのが「QUEEN ROCK MONTREAL」だ。1981年、モントリオールにおけるコンサート収録である。この時期のクイーンは1979年にライブアルバム『ライヴ・キラーズ』、1980年にスタジオ・アルバム『ザ・ゲーム』を出し、ロカビリー調の「愛という名の欲望」とディスコ調の「地獄へ道づれ」が大ヒット、映画「フラッシュ・ゴードン」のサウンドトラックにも携わり、1981年にはデヴィッド・ボウイとのコラボ「アンダー・プレッシャー」を発表、さらに11月には人気曲だらけのコンピレーション・アルバム『グレイテスト・ヒッツ』をリリースした(累計売上は全世界で2500万枚以上という)。つまり、「QUEEN ROCK MONTREAL」にあるのは、引く手あまたで、乗りに乗っていて、やることなすことうまくいっていた“絶頂期”のクイーンの姿といっていいはずだ。 ■会場を埋め尽くした誰もが大喜びした名曲 ライブは「ウィ・ウィル・ロック・ユー」から始まるが、あの、あまりにも有名な足踏み+クラップによるアレンジではなく、4人一体となった、ロックならではのドライブ感あふれるバンドバージョン。「君たちをロックするよ」と歌った次に登場するのは、「君たちを楽しませたいんだ」とばかりに「レット・ミー・エンターテイン・ユー」。このライブの場合、“ユー”とはファンのことであろうから、会場を埋め尽くした誰もが大喜びしたに違いない。 ほか、「愛にすべてを」あり、「キラー・クイーン」あり、「アンダー・プレッシャー」あり。「愛という名の欲望」から、エルヴィス・プレスリーのロカビリー大定番「監獄ロック」へ流れていくあたりの塩梅も絶妙だ。超大作「ボヘミアン・ラプソディ」は、普通に考えたらライブ化が不可能なほどスタジオで徹底的に編集された曲。しかも1981年といえばシーケンサーもなかったであろう時代に、「ボヘミアン・ラプソディ」を、クイーンはライブでどう披露したか…に関してはその目で確かめていただきたい。とにもかくにも90数分、私はクイーンの“引き付ける力”のとりことなった。 大会場のロックコンサートであるが、背後にスクリーンが登場したりレーザー光線が飛び交うのは、ずっと後の話。楽器もボーカル・マイクもシールドにつながれているのは、まだワイヤレスが一般的になっていなかったからだ。当然、イヤモニ以前の時代の話なので、音楽家の耳には何も着いていない。観客がライターやマッチでつけた火を高く掲げるシーンもあるが、この演出(ボブ・ディランとザ・バンドのアルバム『偉大なる復活』のジャケットも参照のこと)も今は昔。今ではスマホのライトを掲げるところだろう。つまりそれほど前の時代の映像なのだ。 1981年――まだ黒電話の時代。レコードはあくまでもレコードであり、そもそもアナログ盤という言葉すら誕生してなかったのでは。だって、デジタル(CD)がなかったのだから。日本では横浜銀蝿などの「ツッパリ」風俗が流行り、松田聖子はデビュー2年目、いわゆる「聖子ちゃんカット」の髪形でアイドル界の頂点におり、中森明菜はまだデビューしていない。そう考えると確かに大昔であるのだが、クイーンの4人は歌もメロディーもバンド演奏も鮮度たっぷりの状態で「ポップ・ミュージックの普遍が持つ強さ」を示しまくり、しかも画質・音質ともにリマスターされているので、一瞬もう今が何年なのだか分からなくなってくる。 フレディ・マーキュリー存命中の頃の“動く”クイーンのライブをリアルタイムで体験したことのある人は、今ではもう、いわゆる「高齢者」の世代に属するのではないかと思う。私など後追いの切なさを感じてしまうが、かといって親に「なんでもっと早く産んでくれなかったんだ」というのもなんだか筋が違う。鮮烈に捉えられた、永遠に色あせることのない1981年モントリオールのひととき。この映像によって、さらに幅広い世代にわたるクイーンのファンが増えることは間違いあるまい。 「QUEEN ROCK MONTREAL」は、ディズニープラスのスターで独占配信中。 ◆文=原田和典