極寒の仁川決戦を温めた大声援と韓国人ファンの優しさ。そして思い出した齋藤学の言葉【ACLアウェー観戦記】
トッポギ(約570円)おでん(約342円)たこ焼き(約684円)
試合開始まで残り50分。最後に腹ごしらえをと、飲食店を物色したところ、こちらも充実のラインナップだ。 韓国料理屋やセブンイレブン、コーヒーショップといった常設店、キッチンカーでトッポギ(約570円)、おでん(約342円)、焼き鳥(約513円)、ホットドッグ(約570円)、たこ焼き(約684円)...。日本語併記のポスターとたまらない匂いで食欲を激しく刺激する。 結局私は、まとめ買いでお得なパン4つ(約342円)と大きめのホットコーヒー(約376円)を携えスタンドへ。手荷物検査の際にも日本語で案内がなされ、非常に心強かった。 あとはキックオフまで寒さとの戦いだ。コンコースには暖を取るヒーターや、談話ルームらしきエリアもあったなか、私は配布されたカイロで耐えながら、直前練習に目を凝らしていた。すると...。 「私はずっと日本代表のファンです」 斜め横から50代くらいの韓国人男性が、流暢な日本語で声を掛け、「自分は手袋があるから」とカイロをくれた。これはありがたい! お礼を言うと、「カガワシンジ(香川真司/セレッソ大阪)が好きです。今はオオサカにいますよね」とも伝えてくれた。かつて欧州で一時代を築いたサムライの知名度、人気度とともに、文字通り温かさを強く感じた瞬間だった。
「表現する力は韓国人のほうが強いのかな」
やがて、互いの威信を賭けた“日韓戦”がスタート。日産スタジアムでも大歓声に加え、「ユ・サンチョルを忘れずにいてくれてありがとう」としたためた横断幕で注目を集めた仁川サポーターは、一丸でホームムードを創出。「仁川オイ!」の掛け声や「ユナイテッド ユナイテッド」のコールで力強く後押し、白熱の戦いをよりヒートアップさせた。 試合の行方とともに、何気なく彼らを見ていて気づいたのは、リアクションの大きさだ。ゴール裏のサポーターのみならず、全員が一つひとつのプレーに対し、喜怒哀楽を露わに。ボールが近くに飛んできても、選手が投げたボトルのキャップが芝生で弾んだ反動で外れても大興奮だ。 そんな様子からふと、水原でプレー経験がある齋藤学(ベガルタ仙台)へのインタビューを思い出した。韓国のファン事情について尋ねた際、マリノスの元エースでもある熟練アタッカーはこう語っていたのだ。 「とても熱狂的です。水原は特にサポーターが熱いクラブだったので、僕はすごく好きなクラブです。負けた時のブーイングもそうですし、勝った時の喜びがより...多分、表現する力は韓国人のほうが強いのかな。日本人より強いと思うので、勝った時に一緒に喜んでくれて、『ワーっ』ていうのはより感じますね」 その言葉通り、若い女性も含めてとにかく感情表現豊かにサッカーを楽しんでいた。 そういえば、今年の春にソウルで韓国プロ野球を観戦した時も、同じ感情を抱いた。マイクを持って踊る応援団のもと、会場全体でまるでパーティーが繰り広げられており、エンタメ性は抜群だった。 K-POPが世界を席巻するなか、今回の仁川遠征は隣国のパフォーマンス力の高さを改めて実感する機会になった。 ちなみに、ハーフタイムは地元で人気のグループが音楽で盛り上げ、試合後は決勝点を挙げたエルナンデス・ロドリゲスがスタンド手前で、かなりの時間をかけて一人ひとりにファンサービス。そうした一期一会の取り組みが間違いなく、熱を高めている。 文●有園僚真(サッカーダイジェストWeb編集部)