リテールメディアの成長を阻む「3つの壁」とは?
リテールの壁を超えてネットワークを構築せよ
1つ目は「リテールの壁」です。最初にご紹介するこの壁の突破が、最も難しいものかもしれません。 リテールメディアの主な出稿主たるメーカー各社は「ブランド経営」という視点から市場を大きく捉えてメディア施策を展開します。そのため、消費者に対してある程度広くメッセージングできるメディアが選ばれます。 北米でうまくいっているリテールメディアプラットフォームの筆頭に、Walmartが提供する「Walmart Connect」が挙げられます。1年間で米国の家庭の90%がWalmartを利用するといわれていることからも分かる通り、Walmartはとにかく多くの人が利用する総合スーパーです。 ここまでマーケットの占有率が高まっていると、リテーラーが提供しているリテールメディアが「面」として成立するようになり、メーカーはマーケティング投資を行えるようになります。 他方、リテールメディアが先行している北米と違い、日本においては力のある小売企業であってもWalmartほどの広い「面」は持っていません。そんな国内の小売企業がリテールメディアを提供するようになっても、出稿主となるメーカーは出稿しづらいでしょう。細かく乱立したリテールメディアは「広い面」という条件をクリアできません。 また、特定の小売企業が運用するリテールメディアに出稿することは、出稿主にその気がなくとも、その企業を優位的に扱うように見えてしまう可能性があります。そのため、単一企業への出稿はなかなか難しいという事情もあります。 もし仮に、100あるリテールメディアに出稿するメーカーがいたとしたら、前述の「広い面」の課題はクリアできるかもしれません。すると、今度は効果検証が非常に煩雑になるでしょう。出稿先によって違った形で集積している効果検証のデータを、なんとか統合して施策の成否を推し量る――という作業にはかなりの手間がかかります。 しかし“小売店の壁を超えたネットワーク化”によって、Walmartと同じことができてしまえば話は別です。日本におけるスーパーマーケットとドラッグストアの年間売上額を合わせると約22兆円に上ります。これほどの金額が動くメディアネットワークはメーカーにとって垂涎(すいぜん)の的です。「広い面」として成立させてしまえば、これまで小売業の現場に還流することのなかった新しい収益源、メーカーのマーケティング費用を獲得できるようになるでしょう。