標高300m「天空の棚田」にほれ込み移住、「自然は厳しい」が景観と集落の暮らしこれからも
棚田保全活動 藤田紫さん
北九州空港にほど近く、周防灘沿いに工業地帯が広がる福岡県苅田町。JR苅田駅から西に車を20分ほど走らせ、細い山道をのぼった標高300メートルの場所に、等覚寺地区の「天空の棚田」が広がっている。 【写真】藤田さんが管理する等覚寺地区の棚田
この美しい棚田にほれ込み、同地区に移住して管理している藤田紫さん(46)は8月下旬、「もう少しかなぁ。イノシシに荒らされるのが怖いんです」と、収穫が近づいた稲穂をいとおしそうに見つめながら、こう語った。
大阪市で育ち、大学卒業後は、大阪や東京の農産物流通会社などで働いた。仕事三昧の毎日の中でふと人生を見つめ直した時、大学生の頃から漠然と抱いていた「田舎暮らし」の夢を追いたくなった。
「生きる=働く」。インターネットで入力して検索していると、苅田町の等覚寺地区で、地域おこし協力隊を募集していることを知った。同地区は、棚田の景観で知られるほか、カルスト台地・平尾台の入り口にもなっており、1000年を超える歴史を持つとされる修験道行事「等覚寺の松会」(国指定重要無形民俗文化財)が開催されるなど、豊かな自然と文化を持っていた。
どうしてもこの地区が気になり、2015年4月、夜勤明けでそのまま飛行機に乗り、北九州空港に。役場近くでレンタルバイクを借り、山道をのぼると、美しい里山が広がっていた。
「ここが私を呼んでいる」
まさに一目ぼれだった。夕方の便で東京に戻り、すぐに退職を申し出た。会社からは引き留められたが、思いは変わらなかった。
その夏に移住し、3年間、協力隊として働いた。自宅を開放して「天空カフェ」を開いたほか、棚田でイベントを開催するなど情報発信にも注力。メディアの取材も相次ぎ、年間約3500人を呼び込んだ。
しかし、その後、家庭の事情でカフェの経営は難しくなり、閉店せざるを得なくなった。現在は集落のみそ加工所で働きながら、休耕地となった棚田を耕して米やソバを育てつつ、SNSで地区の魅力を発信している。