戦略的な重要性を増す太平洋・島サミット
「太平洋島嶼国ウィークス」の取り組み
6年ぶりの対面の首脳会議になった今回のPALM10は、相互信頼の回復と未来への基盤となる重層的な関係を構築することが課題だった。 そこで笹川平和財団は民間主導のトラック2外交、官民混合のトラック1.5外交としてPALM10に先立つ7月8日から19日まで東京・虎ノ門の同財団ビルにおいて「太平洋島嶼国ウィークス」を開催した。 このイベントに太平洋島嶼国から50人以上の閣僚や議員、実務者を招き、海洋安全保障・排他的経済水域における法執行、持続可能な観光、伝統文化の保護、経済開発、保健医療・水と衛生、気候変動に伴う海面上昇の影響などをテーマに連日セッションを開いた。 さらにパラオ、マーシャル諸島、ツバル、フィジー、ニウエ、仏領ポリネシアの各首脳が基調講演に登壇した。フィジーのランブカ首相からは太平洋を平和の海とする「オーシャン・オブ・ピース」のビジョンが紹介された。ビルのエントランスには三重県の協力でパラオの伝統的カヌーが展示され、各地場産品の販売や文化紹介とともに彩りを添えた。
「強固なパートナー」宣言
PALM10の結果で注目されるのは、日本と太平洋島嶼国の関係が、共通の課題に取り組むパートナーへと発展した点だ。 首脳宣言を見ると、過去の宣言に比べて日本とPIFの一致点が多くなった。PIF策定の「ブルーパシフィック大陸のための2050年戦略(2050年戦略)」の7分野に沿って、日本が協力姿勢を示したことが大きく影響している。 首脳宣言を補足するPALM10共同行動計画では、日本とPIF諸国が自らを「PALMパートナー」と呼んだことが注目される。行動計画は、「平和と安全保障」「資源と経済開発」「気候変動と災害」など多岐にわたるが、その中に「自衛隊機や艦船の寄港を通じた防衛交流の強化」や「海上保安交流の強化」が盛り込まれたことは、戦略的に重要だ。これまで概念的だった「法の支配に基づく国際秩序」の考え方を支える取り組みが見えるようになった。 懸念材料であった福島第1原発の処理水問題をめぐっては、首脳同士が国際原子力機関(IAEA)を「原子力安全に関する権威」と認め、「科学的根拠に基づくことの重要性で一致」したと宣言に明記された。誤解を解く足場ができたことで、日本としては大きな前進だった。 首脳宣言は最後に、日本とPIFメンバーが「2050年に向けて太平洋地域で共有するビジョンを共に達成する」ため「強固なパートナーであり続ける」とうたっている。曲折を経ながらも、PALM10が信頼関係を回復する機会となったのは間違いない。
【Profile】
塩澤 英之 笹川平和財団・海洋政策研究所主任研究員。島嶼国・地域部長。1972年生まれ。青年海外協力隊短期隊員(マーシャル・理数科教師)、駐マーシャル日本国大使館専門調査員、駐フィジー日本大使館1等書記官を経て2015年11月より現職。日本・太平洋島嶼国の相互理解の深化、同志国連携、産官学民連携などをテーマとする事業の推進、地域情勢分析等を担う。