関税立て替え注意喚起。財務省要請。商慣習改善に期待
財務省関税局は5日付で、荷主が関税や消費税などを通関業者に立て替えさせる取引に関し、日本貿易会宛てに注意喚起する文書を出した。公正取引委員会の調査も紹介し、立て替え払いを「優越的な地位を利用した不公正な取引となる場合がある」として公正な取引を要請。通関業者も物流業と位置付けた上で、通関業者との取引に配慮を求めた。通関業者からは「文書のインパクトは大きい。悪しき商慣習改善への前進が期待できる」との声が上がる。 関税局は立て替え払いに関して2021年2月にも今回と同様、業務課長名で日本貿易会宛てに通関業者への配慮を求める文書を発出しているが、同文書は新型コロナウイルス禍という緊急事態を受けて出されたものだった。加えて大手通関業者によると、今回の文書では変化が見られる。 最も大きいのは公取委の名前が記載されていることだという。文書は公取委の調査で独占禁止法上の問題につながる恐れのある事例として、立て替え払いが3年連続で取り上げられたことに触れている。関係者は「前回は立て替え払いが不公正な取引になる可能性を指摘し、コロナ下での通関業者の負担を懸念するのにとどめていたが、そこから踏み込んでいる。関税局と公取委の連携も期待できる」と解説する。 また、政府が通関業も物流業と位置付け、商慣行の見直しを促すとも解釈できるという。通関業は財務省、物流業は国土交通省が所管しており位置付けがあいまいだったが、今回の文書では「通関業者も国際物流の一部を担っている」としている。政府は「2024年問題」を受けて打ち出した物流革新のための政策パッケージで商慣行の見直しを掲げている。そのスコープに通関業も入ったと見ることができる。 さらに、文書は価格転嫁にも言及。コスト上昇分を反映する必要性について協議することなく取引価格を据え置くなど「公正な競争を阻害する恐れのある場合には、公正取引委員会による調査などの対応が行われている」とした。政府は中小企業などの価格転嫁や賃上げを後押ししている。関税局業務課によると、通関業者からの声も受けて盛り込んだ。 同課は文書について、「民間の契約であっても法に抵触する行為は許されない。独禁法上問題につながる恐れのある事例には注目している。立て替え払いが問題につながる恐れのある取引になる場合があると認識してもらいたい。価格転嫁を含め、注意喚起するために文書を発出した」と説明。文書を出すに当たっては公取委とも協議しており、「今後必要があれば連携も模索していく」とした。 通関業者にとって立て替え払いの負担は重い。しかし、立て替え払いは他社との競争上取らざるを得ない手段でもあり、長く商慣習として続いてきた。それを公取委が問題視した上、今年3月には衆議院財務金融委員会の質疑でも取り上げられ、改善への気運が高まっている。 とはいえ、問題解決には程遠い。東京通関業会が6―7月に行ったアンケート調査では立て替え払いが「昨年よりも減少した」と回答した店社は前年度から7・3ポイント上昇し53・8%だったが、立て替え払いを行っていると回答した店社が95・6%に達した。大阪通関業会の7月の調査でも、立て替え払いを行っているのは前年度と同様の9割に上り、また9割が負担と認識している。 通関料金については人件費の上昇や業務の増大などで費用が増加しているにもかかわらず、自由化以前の料金水準が浸透しているとされている。名古屋通関業会が7―8月に実施した調査では、料金が変わらないとの回答が多くを占めた。 通関業者関係者によると、コンプライアンス(法令順守)を重視する大手荷主に関しては立て替え払いの改善が進んでいるという。輸入者指定の一般口座から関税などを自動的に納付できるリアルタイム口座振替方式を利用すれば、業務も効率化できる。 問題は中小企業だというが、日本貿易会会員には業界団体も多い。関税局も同会以外への周知も図っているという。関係者は「今回の文書は価格転嫁を含め、荷主との交渉の大きな後ろ盾になる」と声を弾ませた。
日本海事新聞社