カドカワには「メリットがはっきり見えない」ソニーの買収提案、そのウラに「生き残りをかけた事情」ありか
買収で狙われやすい状況にある
もう一つ理由を探すと、KADOKAWAの不安定な株主構成があるかもしれない。 角川書店からつながるKADOKAWAは、長い間、角川一族が経営に大きな影響力を持っていた。しかし角川一族は、創業家ではあってもオーナーではない。一族の持株比率は直近で2%程度に過ぎない。 創業家の持株比率が低下した理由のひとつは、2014年のドワンゴとの経営統合にある。当時成長期待の高かったドワンゴの株価は高く、結果として統合会社の持株比率でドワンゴのオーナーであった川上量生氏の比率が高くなった。 さらに川上氏が保有株の売却を進めた結果、KADOKAWAの株式の市場流通量が増加した。大きな安定株主がおらず、流動株が多い。 そうしたなか2021年頃より韓国系ファンドがKADOKAWAの株式を買い集め、直近で保有比率は11%を超えている。海外のエンタメ企業が日本のアニメやマンガ関連の買収を検討したという噂は、00年代からたびたびあった。しかし、そうしたM&Aはなかなか実現しない。 国内の有力なエンタメ企業は安定株主で多くの株式を保有する。なかでも講談社、小学館、集英社を筆頭に、有力出版社は非上場のオーナー企業が大半で買収は難しい。 しかしKADOKAWAは上場企業で、大きな株主も存在しない、時価総額も直近で5000億円前後と大き過ぎない。買収で狙われやすい企業なのである。 一昔であれば、経営陣の賛意なく日本で企業を買収することは難しく見えた。しかし、直近のカナダ企業によるセブン&アイ・ホールディングスへのTOB提案のように、それは珍しくはなくなった。さらに昨今の円安トレンドで、海外企業にとって日本企業はお買い得に映る。 成長性が高く、日本独自でノウハウを持つ日本のエンタメ企業は海外からも魅力的だ。KADOKAWAが自から最適なパートナーを探ることで、生き残りを目指すと考えたとしても不思議ではない。 【こちらも読む】『ニコニコ動画、存続の危機?いきなり「ソニーのKADOKAWA買収」報道…双方の「思惑」とユーザーが危惧する「不安な未来」』
数土 直志(ジャーナリスト)