いまのクルマ、本当に“持続可能”? 名車から考えるデザインの賞味期限 アルファGTV/クーペフィアット
デザインの歴史は財産だ!
クリス・バングルの名を世間に知らしめた1台がクーペフィアットだ。4mと少しの全長に大人4名が過ごせる車内空間と、十分以上のラゲッジを有し、優れた実用性を備える。車台とパワートレインは当時の他車種からの流用を中心にまとめられている。クルマのパッケージングとしての完成度は高い。 クーペフィアットのハイライトは、何を差し置いても、この唯一無二のボディに尽きる。巨大なプレスで機械的に加工されたようなGTVに対して、クーペフィアットは、職人が木型を手に金属板を叩き出したような造形。ひとつひとつのディテールは古典的ですらある。盛り上がったフロントフェンダーの峰しかり、むき出しのフューエルキャップしかり。 それでいて、世に産み落とされた1台のクルマとして、カタチが古びない。「ことし発表されたBEVです」と告げられても受け入れてしまいそうだ。いま見ても年季を感じさせない。 そう感じさせる一因は、GTVと同様、一見奇抜な造形も機能に即しているからではないだろうか。たとえば、前後のフェンダーは通常の半円形で処理するのではなく、前傾した鋭利な切れ込みで処理した。想像してほしい。もしクーペフィアットが平凡なフェンダーを備えていたら、そのビジュアルはいかにも凡庸で退屈であっただろう。 奇をてらったようでいて、そこにはかならず機能が内在する「意味のある」デザイン。それこそがこの2台にタイムレスな魅力をもたらしている。2024年のこんにち、世に溢れているクルマたちに目を向けるとどうだろうか。意味もなくキャラクターラインをこねくり回し、これでもかとメッキ加飾を加える。 10年、20年と時を重ねてなお、輝きを放ち続けるのはどんなデザインか。持続可能性が叫ばれるいま、メーカーだけでなく消費者も、来たる明日だけではなく、これまでの足跡に目を向けて考える必要がある。
試乗車のスペック
■アルファロメオGTV 全長×全幅×全高:4230×1780×1280mm 駆動方式:FF 車両重量:1370kg パワートレイン:V型6気筒1990cc+ターボチャージャー 使用燃料:ガソリン 最高出力:231ps/6000rpm 最大トルク:27.6kg-m/2500rpm ギアボックス:5速マニュアル タイヤサイズ:205/50R16(フロント・リア) ■フィアット クーペフィアット 全長×全幅×全高:4250×1765×1340mm 駆動方式:FF 車両重量:1320kg パワートレイン:直列4気筒1995cc+ターボチャージャー 使用燃料:ガソリン 最高出力:195ps/5500rpm 最大トルク:30.2kg-m/3400rpm ギアボックス:5速マニュアル タイヤサイズ:205/50R15(フロント・リア)
香野早汰(執筆) 小川和美(撮影)