「3列シート」車をどう選ぶ? ライフスタイルで変わる複雑な“解”
例えば「クラッシャブルゾーン」は必要か
ところが、これに穴がないかというと、そんなことはない。様々な瑕疵(かし)が存在するのだ。シートが収納できるためにはシート自体をコンパクトな設計にしなくてはならない。するとシートフレームの骨材が細くなる。加えて折りたたみのためのヒンジがあちこちに必要になる。その結果、エンジンの振動を拾ってシートがブルブルと震えたりする。ひどいものになると耳の中がこそばゆくなるようなクルマもあった。 もっと問題なのはリヤの「クラッシャブルゾーン」である。元々前後長の少ないクルマに3列目を架装すれば、3列目の乗員の後頭部はリヤウィンドーギリギリに位置することになる。この状態で追突されれば、3列目の乗員に生存スペースは残らない。自動車の安全性とは、頑丈で潰れない客室スペースと、その前後などに用意された潰れて衝撃を吸収するスペースの組み合わせで成り立っているのだ。どんなに高い技術があっても、クラッシャブルゾーンなくして、キャビンの安全性は確保できない。
例えば、先日国内発売されたボルボXC90の3列目シートは狭い。アメリカをメインマーケットとするフルサイズSUVでありながら、3列目シートの乗員は170センチ以下推奨というものだ。シートもあまり後ろまでスライドしないから膝元も狭い。しかしボルボは2列目と3列目の安全性が完全に同等であると言い切る。そのためのリヤのクラッシャブルゾーンを作るために、3列目のシートの居住性は限定的になっている。ボルボ自身が「何かを犠牲にせずに全てを選択することはできない」という現実を見据えて、広さと安全性の優先順位を決めたから実現できたことである。それは安全性を最大のセールスポイントとするボルボの戦略だと思う。
しかし、筆者はここでもう一度話をひっくり返す。安全は果たして何よりも優先されるべきだろうか? 仮にそうだとするならば、安全性を売りにしているボルボなりベンツなりのフラッグシップモデル以外は選択してはいけないことになる。「安全」という言葉を聞いた途端、思考停止してしまうのは間違いだ。安全は常に犠牲を強いる。しわ寄せを受けるのは大抵、利便性やコストである。 もし、年に2度くらい、近所のファミレスまで行くために7人乗りが必要なだけなら、そこまで徹底した安全性は要らない。もちろんリスクはある。しかし一方でXC90の車両重量は2.3トンに達する。言うまでもないが燃費も小型車並みとはいかないし、駐車場も選ぶ。限界的な状況では軽いクルマなら止まれた状況で止まれないこともあり得る。そういう意味で考えれば、例え安全性が完璧でなくてもBセグメントミニバンの存在意義は高い。