開演1時間前の“ドタキャン騒動”大バッシングの風向きを変えた、沢田研二とファンの「関係」
「己を貫く強い人」か「融通が利かない頑固者」か――。 歌手として一生懸命、自分の主義を貫くのにも一生懸命、仲間とつながり続けるのも一生懸命。評価が上がろうが下がろうが。 【画像】沢田研二の秘蔵写真を見る ジュリーの活動から「自分を更新する生き方」を考える『なぜ、沢田研二は許されるのか』(田中 稲著/実業之日本社)より、一部を抜粋し掲載します。(前後編の後篇)
プライドとモチベーションの位相
近年、沢田研二の存在を広く世に知らしめるきっかけになったのが、2018年10月17日に起きたさいたまスーパーアリーナでの“ドタキャン騒動”だった。 午後5時開演予定の公演で、7,000人のファンがすでに会場に集まり開催を待っていたにもかかわらず、4時頃に急きょ中止がアナウンスされた、というもの。まさに土壇場での公演キャンセルで、どう考えてもファンは気の毒、ジュリーにとっても、最悪のエラーとなるはずだった。 沢田研二は事前に所属事務所とイベント会社から9,000人の集客と聞いていたが、実際は7,000人程度しか入っていなかったという。しかも、座席(の一部エリア)が死角でもないのにつぶしてあったことをリハーサルでモニターを見て知り、最終的に自身で中止を決めたというのだ。開演の1時間前まで中止の告知がずれ込んだのは、公演をしてほしい事務所やイベンターとの押し問答が続いてしまったのが理由だった。 この出来事は大きなニュースとなり、世間を騒がせた。SNSでは「ただの強情」「観客が一人でも演じるのがプロ」という厳しい意見が飛び交った。後日ワイドショー番組でも数多取り上げられ、彼は注目を一身に浴びた。私もニュースを見て驚き、コメントを閲覧した。沢田研二の決断そのものより、「コンサートってこんなにギリギリで中止できるんだ」ということに先にビックリした人も多かった。 しかし、この騒動が興味深かったのは、擁護派も多かったことである。テレビでは、コンサートやイベントの経験がある多くのコメンテーターが、自身の体験と重ねて、観客が集まらない中でイベントをするつらさに言及し、沢田研二に理解を示した。さらに、落語家の立川志らくはTBS系列の情報番組『ひるおび! 』で「文句を言っていいのは当日行ったお客だけ」と持論を展開した。 ビートたけしは、当時レギュラーを務めていたTBS系列の情報番組『新・情報7daysニュースキャスター』で、「まあね、我々みたいにジジイになったんだから、ワガママになるんだよ。年取って有名になって売れてくると、だんだん図々しくなるんだよ、我々。私もそうですけど」としながらも、「よくこれだけできるね。俺だったらとっくにやめてるよ、疲れちゃって」と、全66公演を回るライブツアー『沢田研二 70YEARS LIVE「OLD GUYS ROCK」』の内容に感心していた。