古き良き街並みにとけこむリノベ宿。温故知新の街、結城へショートトリップ
豊かな風土に彩られた日本には、独自の「地方カルチャー」が存在する。そんな“ローカルトレジャー”を、クリエイティブ・ディレクターの樺澤貴子が探す本連載。今回の旅先、茨城県と栃木県の県境に位置する結城市は、見世蔵造りの街としても知られる。まずは、古き良き街並みに溶け込みながらも現代的なセンスが漂う宿を訪ねた 【温故知新の街、結城へ】食や文化で感じる日本の魅力(写真)
《STAY》「HOTEL(TEN)」(ホテル・テン) 軽やかなノスタルジーを奏でる“街やど”
モダンにリノベーションされた一棟貸しの古民家宿は数多あれども、今回訪れた「HOTEL(TEN)」は街との密度がひと際高い。というのは、約15年以上にわたり街づくりを手がけてきた「結いプロジェクト」によって運営されている所以である。その立ち上げ人はUターンでこの地に戻り、商工会議所に勤める野口純一さんと、地元出身の建築士の飯野勝智さん。街中でのマルシェをはじめ、神社仏閣での音楽イベントを重ね、シャッター街と化していた伝統ある見世蔵通りに、無理なく少しずつ新たな息吹を吹き込んできた。2022年、その歩みの延長として結城の“今”を知り尽くしたユニットによる「HOTEL(TEN)」が誕生した。
二足の草鞋を履く二人が運営するだけに、チェックインは宿から徒歩2分の「yuinowa(ゆいのわ)」で行う。見世蔵通りに面した「結いプロジェクト」の拠点であると同時に、カフェやコワーキングスペースが融合した施設のため、フロント機能を果たすと同時に旬の街歩き情報を得ることもできる。“TEN”という名称は、結城の街でひとつずつ種まきをしてきた点と点のアクションが、宿の存在を通して線として繋がる願いを代弁。さらに、「家族や友人同士で古き良き“場”の心地よさを分かち合って欲しい」という想いから最大“10人”まで利用できることも、名称の由来に重ねた。
結城の歴史の輝きは、鎌倉幕府の成立を支えた結城朝光がこの地に館を築き、初代当主となったことに幕開ける。地理的にも江戸経済の大動脈である鬼怒川の要衝にあったことから、18代約400年にわたる結城家の統治のもと、結城紬や農産物の集散地として隆盛を極めた。今なお、鬼怒川の伏流水で仕込まれる、酒・味噌・醤油の醸造業が受け継がれ、プリミティブな手仕事から生まれる絹織物「結城紬」の工房が息づく。さらに、こうした伝統的な生業に加えて、「結いプロジェクト」に端を発したカフェやレストランが街のスパイスとして穏やかな個性を放つ。