「安さの呪縛」に取り憑かれた日高屋、《開業以来初の中華そば値上げ》で客離れが危惧される「皮肉な理由」
12月20日、株式会社ハイデイ日高は運営する低価格ラーメン・中華料理チェーン店「日高屋」の全店舗(浅草駅前店を除く)で、商品全体の約7割に当たる約150品の値上げを開始した。 【写真】日高屋のチゲ味噌ラーメンが美味すぎる…なぜ人気メニューになったのか これまでも日高屋は、直近では'22年8月、'23年3月、そして'24年5月と商品の価格改定を行ってきた。だが、従来の値上げとは大きく異なる点が世間をざわつかせている。それが、看板商品である「中華そば」を税込み390円から420円に値上げするという点だ。
20年以上守り続けた390円の中華そば
'02年、新宿に日高屋1号店を開業して以来、中華そばの値段はずっと390円('04年までは税別表記)に据え置かれていた。その間、消費税が5%から8%、10%へと上がってなお変えることなく、実質“値下げ”で提供し続けていたわけだ。 たとえば、同じく日高屋の人気メニューである「野菜たっぷりタンメン」はどうか。こちらの値段は開業当初490円だったが、590円まで値上げされ、12月20日には620円となっている。いかに中華そばだけが、頑なに390円を守り続けてきたことがわかるだろう。 この中華そばに餃子と半チャーハンをつけた定番のセット「ラ・餃・チャセット」でも値段は680円。仮に生ビールをつけたとしても、合計はたったの1030円。ランチはもちろんのこと、仕事帰りに夕食を兼ねて1杯というサラリーマンにとっても、実に財布に優しい値段設定であることは間違いない。 日高屋は“低価格”の象徴である中華そばがあるからこそ、庶民の味方として人気を集めてきた。それゆえに、今回の値上げは、日高屋の根幹を揺るがす大事件とも言える。
「ずっと値上げしたかったのでは…」
今回の一連の価格改定について、ハイデイ日高は理由をこのように述べている。 〈従来より食品ロス削減及び各種コストの最適化、店舗運営の効率化に努めてまいりました。しかしながら、長期化する原材料価格やエネルギー価格の上昇、物価高騰の影響が大きく、企業努力だけでは補えない状況となっております。〉(12月10日のプレスリリースより引用) 事実、外食チェーンを取り巻く状況の深刻さは、日高屋の言葉通りだろう。原材料価格や光熱費の高騰、さらに直近のコメ不足も相まって、厳しい環境に置かれている。 だが、今年5月、やはり〈原材料価格の高騰やエネルギーコスト上昇に伴う物流費、消耗品費等の各種コストの増加に対応〉するためと、今回とほぼ同じ理由で値上げした際には、中華そばは対象になることはなかった。 日高屋の関係者はこう話す。 「創業者の神田正会長はかねてより商品に関して『味は求め過ぎない』『10人食べて7~8人がおいしいと言ってくれればいい』と語っています。食べても飽きがこない。そして毎日食べても困らないほどに安い。その理念を最も体現したメニューこそ中華そばなんです。だからこそ、中華そばの値上げは断固として行ってこなかった」 では、そんな理念に反することになるリスクを冒してでも、苦渋の決断で中華そばの値上げに踏み切ったのか。その理由はライバル社の動向にある。 「本当はこの3~4年間、ずっと値上げしたかったのではないか」と指摘するのは、フードビジネスコンサルタントの永田雅乙氏だ。 「今回の『中華そば』の値上げですが、おそらく数年前から俎上に挙がっていたと思います。それが今回、値上げに踏み切った理由としては、日高屋のライバル、『幸楽苑』と『餃子の王将』が、値上げ後も好調にあった点が後押ししたからだと考えられます」