「理系出身だから営業は無理」…メーカー勤務の優秀な女性が出勤できなくなったワケ
自分の希望通りにならないことを受け入れられない
この女性も、先ほど紹介した新入社員と同様に自分の希望通りにならないことを受け入れられないようだ。 社内でどこに配属されるかは、会社の方針や上層部の意向によって決まることが多く、各人それぞれの希望通りにはいかないことがままある。第一、社員すべての希望を聞いて、それをすべて反映させた人事を実行するのは土台無理な相談だ。 誰か一人の希望を優先させたら、他の大勢から不満が噴出しかねず、「あちらを立てればこちらが立たぬ」事態になるのは目に見えている。そういう事情がわかっていれば、よほど理不尽な異動でない限り一応受け入れて異動先でしばらく勤務し、次の異動を待つことにしようとほとんどの方が考えるのではないか。 ところが、新入社員も、20代の女性社員もそれができない。そのため、作り話をして異動を画策したり、出勤できなくなったりする。しかも、その理由が中卒や高校中退の職人と一緒に働くのは嫌とか、自分が見下していた大学の出身者に教えてもらうのはプライドが許さないとかいうもので、ちょっと首をひねりたくなる。 こうした理由は本人にとっては深刻なものであり、耐え難いのかもしれない。だが、その理由を聞いて、「たしかに大変だね」と共感できる方がどれだけいるだろうか。少なくとも私は、心から共感することはできなかった。むしろ、女性社員の上司の「もう少し辛抱して頑張ったら、やがて慣れてくるでしょう」という助言に共感を覚えた。きついと批判されるかもしれないが、それを覚悟のうえで申し上げると、辛抱が少々足りないのではないかと思ったということだ。 もっとも、現在の日本社会で「辛抱」という言葉は20代の若者にとって死語なのかもしれない。終身雇用も年功序列も崩壊しつつあり、若い頃に辛抱したからといって、その会社に定年までいられるとは限らないし、給料が年齢とともに順調に上がっていくわけでもない。少なくとも、現在20代の若者が今勤務している会社に定年までいる可能性はきわめて低い。とすれば、一昔前の日本企業であれば社員に強いることができた辛抱であっても、それを今の若手社員に望むのは無理だろう。 つづく「どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体」では、「最も多い悩みは職場の人間関係に関するもので、だいたい職場を腐らせる人がらみ」「職場を腐らせる人が一人でもいると、腐ったミカンと同様に職場全体に腐敗が広がっていく」という著者が問題をシャープに語る。
片田 珠美(精神科医)