6年で60店も閉店したのに、むしろ売上高は伸びている…「ブックオフ」に起きている大変化を解説する
■小売業界での成功のキーファクター 小売業界には「業態のサイクル」があると言われる。百貨店が衰退し、スーパーマーケットが興り、そのスーパーからコンビニへと業界の中心業態がシフトする。さらにその先にはeコマースやショッピングモールが勃興……という業態の大きな転換をみて、業態が一定期間で入れ替わっていくようなサイクルが存在する、とした仮説である。 この背後には、消費者の生活様式の変化がある。世代を追うごとに人々の暮らし方は劇的に変わっていき、かつての業態はもはや新世代のニーズには刺さらなくなるのである。技術の変化もある。物流やITシステムの改革により、新しい業態は旧い業態よりも一般的に効率性が高く、結果として収益性が高くなる。 こうしたサイクルの存在を念頭に置くならば、小売業界で長く生き残っていこうとすれば、新しい業態をスピーディーに生み出していくことが必要となる。 事実、セブン&アイはデパート(イトーヨーカドー)からコンビニへというシフトを果たした結果として大きく飛躍し、そしてまた、旧来のデパート事業を保持し続けていることが現在は足かせになってしまってもいる。業態転換に先駆け、断固として変化することは、小売業界での成功のキーファクターなのである。 ■対立する2つの経営戦略 このことは、経営戦略の理論によっても既に理論化されている。 もともと、経営戦略論の中では、企業は長期にわたって安定した収益をあげたいならば、「持続的な競争優位」(sustainable advantage)を作るべきだとされてきた。代表的な論者は、日本でも世界でもMBAの戦略論スタンダードテキスト『企業戦略論』の著者であるJ.B.バーニーである。 バーニーは、外部環境にある機会を狙い、脅威を排除するような戦略では、企業の実力が育たないから、長期的な安定性が得られないとした。トヨタ自動車のように、ものづくりの能力を磨き、技術を最新にし、ディーラーの技能を高めていけば、多少の環境変化にはびくともせず収益を稼げるとしたのである。 ここから、企業経営においては、持続的な優位性を発揮できるように内部資源を磨き上げよとする「リソース・ベースド・ビュー」が誕生する。 だが、これに異を唱える学派が登場してくる。あまりにも激烈な環境変化の中では、特定の事業環境に適合するような競争力を構築しても、意味がないとするのである。 代表的な論者であるリタ・マグレイスは『競争優位の終焉』において、変化が激しいときには、持続的な優位を作ろうとするのではなく、現在の状況に即応する一時的な優位(temporary advantage)をつくるべきだと論じる。