日本の涼景を求めて奥蓼科へ。標高2000㍍超の天然湖で苔むす原生林に囲まれた白駒池
空中散歩から老舗の冷泉へ
翌日は車で30分ほどの北八ヶ岳ロープウェイ山麓駅を目指す。標高1771㍍の山麓駅から標高2237㍍の坪庭駅まで約7分の空中散歩だ。八ヶ岳連峰をはじめ南・中央・北のアルプスの峰々を遠望できる。 山頂の坪庭自然園は、八ヶ岳の噴火でできた溶岩台地で、長い年月をかけて植生が回復。一周1㌔強の散策路を巡り、荒涼とした景色の中に針葉樹が根を張る姿を目にし、植物の生命力を感じた。夏場はハクサンフウロやオトギリソウなどの高山植物も見られる。 下山したらランチは国道299号沿いにあるベーカリー レストランエピで本格ピザに舌鼓。シェフの青木淳さんはシエラ(レタス)やスイスチャードなどの野菜を自家栽培し、料理に使っている。ベーコンやソーセージも自家製にこだわり、でき上がりに納得するとメニューに加えるという。 奥蓼科温泉郷には現在3軒の旅館があり、いずれの源泉も21度~25度程度と夏にぴったりのぬる湯だ。そのうちの1軒、渋・辰野館へ向かう。道中、御射鹿池(みしゃかいけ)に立ち寄った。日本画家・東山魁夷(かいい)の作品「緑響く」のモチーフになったといわれ、緑の木々が水面に映る風景が幻想的だ。創業100年超の渋・辰野館は、歴史を感じさせる佇い。21度の源泉と加温した源泉に交互に入る冷温浴で新陳代謝を高めてくれる。名古屋から来て温泉巡りを楽しんでいるという男性は、「下界に戻りたくない」とぼやいた。気温30度近くの東京へ帰ることを思うと、深くうなずかずにはいられなかった。 文/田辺英彦 写真/青谷 慶