パリ五輪を振り返る 日本サッカー男子はなぜメダルに届かなかったのか?
パリ五輪が終わった。期待通りの金メダルに輝いた選手もいれば、予想外の敗北を味わった選手もいる。柔道の混合団体で最後の対戦カードを決めるスロットに憤慨した人もいれば、閉会式のトム・クルーズさんが最も印象的だったという人もいるだろう。大会のハイライトは人それぞれだろうが、ベスト8に終わった(あえて〝終わった〟と書かせてもらう)サッカー男子について振り返ってみたい。56年ぶりのメダル獲得を目標に掲げてフランスに乗り込んだ日本は1次リーグを3連勝という、これ以上ない成績で突破したが、準々決勝でスペインに0―3で敗れて大会を去った。なぜメダルに届かなかったのか。メダルには何が必要だったのか。 いうまでもなく、サッカー男子の最高峰は4年に1度のワールドカップ(W杯)である。五輪は年齢制限があり、原則23歳以下で争われる。各国が本気で目指しているタイトルはワールドカップで、オリンピックをどれだけ重視するかは各国の置かれた状況によってかなりの濃淡がある。日本はオリンピック熱が高く、注目度もあることから、フル代表ではないオリンピックのU―23(23歳以下)のチームでも大会が近づけば(そして大会が始まれば)、これまでもそれなりに盛り上がってきた。日本が好成績を収めるのは、ワールドカップよりもオリンピックの方がハードルは高くないと考えている。 ただ、今回はオリンピックに臨むにあたり、十分な態勢だったのかどうか疑問符がつく。参加した16チームの中で、2000年12月31日以前に生まれたオーバーエージ(OA)の選手を起用しなかったのは、日本だけだった。さらに23歳以下の選手でも欧州でプレーする選手は限られ(久保建英や鈴木彩艶、鈴木唯人らが選ばれず)、「移籍の可能性がある」(山本昌邦代表チームダイレクタ-)として選外となった松木玖生(FC東京からサウサンプトンへ移籍。今季はギョズテペへ期限付き移籍)の例もある。大岩剛監督が選びたかった選手を、何の制限もなく呼べたわけではなかったことはメンバー発表記者会見の表情や言葉を見れば明らかだった。 海外組の選手が増え、シーズンの開幕前の準備時期に重なることから、五輪への選手派遣へ理解が得られないというのが日本サッカー協会(JFA)の言い分だった。しかし、そうだとするならば金メダルに輝いたスペインにアレックス・バエナ(ビリャレアル)やフェルミン・ロペス(バルセロナ)が選ばれているのはなぜか。アルゼンチンにフリアン・アルバレス(マンチェスター・シティー→アトレチコ・マドリード)やニコラス・オタメンディ(ベンフィカ)がいたのはなぜか。欧州におけるオリンピックの重要性が低いというのであれば、彼らがパリで戦うチームに選ばれたのは説明がつかないだろう。 開催国で準優勝したフランスもベテランのアレクサンドル・ラカゼット(リヨン)らOA枠の選手に加え、バイエルン・ミュンヘン入りが大会前に決まったばかりのミカエル・オリセが中心選手として活躍していた。銅メダルのモロッコには2022年ワールドカップで活躍したアシュラフ・ハキミ(パリ・サンジェルマン)やアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)で横浜Mを苦しめたストライカーのスフィアヌ・ラヒミ(アルアイン)がいた。 サッカーは11人で行うものだし、OAの選手が加わったことですぐにチーム力がアップするとは限らない。例えば、今回の日本に五輪予選にはいなかった選手がぽんと加わったからといってプラスに働いた保証はないだろう。しかし、である。制約の中で23歳以下の選手のみで臨んだ日本と、メダルを取ったチームとの間にはチーム編成の時点で明らかな差があったと言わざるを得ない。 日本は1968年のメキシコ五輪で不世出のストライカー、釜本邦茂やウイングの杉山隆一らを擁して銅メダルという金字塔を打ち立てた。それから28年、オリンピックの舞台から遠ざかっていたが、1996年アトランタ五輪でようやくその舞台に帰ることができた。そして、それから28年。オリンピックに出続けている日本は2度のベスト4、2度のベスト8、そして4度の1次リーグ敗退という成績を残している。 今回の大岩ジャパンのベスト8は、決して悪い成績ではない。しかし、どこか想定の範囲を突き破れなかったという見方もできる。大岩監督はチームを率いる立場として「金メダル」という言葉を口にしていた。しかし、日本サッカー協会(JFA)としてパリ五輪の目標を設定した形跡も、「ノルマ」を課した形跡もない。そのことが、日本がオリンピックで正真正銘の成功に至らない根っこにあるのではないか。現場のチームだけでなく、協会全体として金メダルへのバックアップをしていたのだろうか? オリンピックのチームを語るとき、2年後、あるいは6年後のワールドカップにどれだけ人材を輩出できるか、という視点がある。昔は「アテネ経由ドイツ行き」なんていう言い回しも使われた。つまり、オリンピックはあくまで通過点で、勝負はワールドカップ―。そんなふうにしてオリンピックは経験を積む場であり、勝負の場ではないと捉えているから、選手選考も言い訳が入り込む余地を残すし、チームとしての結果も突き抜けたところまでたどり着けないのではないだろうか。パリ五輪のベスト8は、そんなことを示していると思う。ロサンゼルス五輪では金メダルなり、表彰台なり、少なくとも現場が立てた目標を協会全体として支えるような態勢でなければ、上位を狙うチームと対等には渡り合えないだろう。
VictorySportsNews編集部