The Last Dinner Partyが語る過剰の美学、この時代に嘘偽りのないバンドであること
南ロンドンから頭角を現し、みるみるうちにUK最注目バンドの座に躍り出たザ・ラスト・ディナー・パーティー(The Last Dinner Party)。先日のフジロックでは堂々たるステージングで2日目のグリーンステージを沸かせた。恵比寿リキッドルームでの単独公演も、初来日とは思えない親密な雰囲気を作り出し、さらなる飛躍を予感させた。デビューアルバム『Prelude to Ecstasy』では、ミニマリズムの逆を行くマキシマリズム(過剰主義)的な美学で過去のロックやポップを貪欲に吸収し、自分たちなりにアウトプット。サウンドはもちろん、ヴィジュアルやファン・コミュニティのありかたも興味深い。単独公演が行なわれる数時間前、5人のメンバーのうちアビゲイル、オーロラ、エミリーの3人に、バンドの現在について聞いた。 【画像を見る】ザ・ラスト・ディナー・パーティー撮り下ろし写真 * ―まずは読者に自己紹介をお願いします。 アビゲイル:私はアビゲイル。リードシンガーです。 オーロラ:オーロラ。キーボード奏者でバッキングシンガーです。 エミリー:私はエミリー。リードギターを弾きます。 ―ザ・ラスト・ディナー・パーティーを結成するにあたって、どういった音楽やヴィジョンを思い描いていましたか? アビゲイル:本当に難しい質問! だいたいのところ何か特定のジャンルを追求しようとか、自分たちが収まる「箱」みたいなものを考えてはいなかったと思う。 オーロラ:ライブがいいバンドにしようとは思ってたよね。 アビゲイル:そう! オーロラ:みんな楽器を持ってて、その生のフィーリングがある。クラシックロック的で、ある意味ほとんどノスタルジック。1枚目のアルバムはそういう路線。シンセポップではなくて。 エミリー:はじまりはピアノとキーボード寄りだったと思う。初期の曲は全部アビーがマイクに録音して作ってたから。ライブをやり始めるまではギターは大きなパートじゃなかった。商業的な意味でのいわゆるギターバンドにはしたくなかった。だけど、そのうちキーボードとかポップな世界とギターを融合させようとしはじめたの。だからロックなんだけど、クラシックなギターバンドじゃなくて。 アビゲイル:もっと演劇的でマキシマリストな。 ―曲はどんなふうに作っていますか? アビゲイル:いくつかのやりかたがあるけど、だいたいが私がピアノで曲を書いて、みんなに聴かせて、そこでそれぞれがパートを加えたり変えたりして、演奏して実験してみる。1stアルバムのほとんどの曲はそういうふうにして書かれたんだけど、いまは違うやりかたでやってる。オーロラの家で全員一緒に座って、シンセを弾いて音楽を作りはじめて、そこに歌詞をのせる。いろんなやりかたを試してみてるの。自分たちに挑戦を課して、やる気を保ち続けるためにね。 オーロラ:5人全員で始めるのは難しい。ひとつのキッチンに5人のシェフがいるのは多すぎでしょ。だからたいていはみんなが小さなアイデアを持ち寄って、ひとつの部屋に集まって演奏すると、そこから進化していくというか。一緒に演奏することで曲ができあがっていく感じ。 ―「Nothing Matters」は熱烈な支持を得ています。どうしてだと思いますか? アビゲイル:わからない。わかってたらその必勝法を売って大金持ちになれる(笑)。思うに、私たちがあれを作ったときの喜びや多幸感、リアルな幸せの場所から出てきたもので、演奏からそれが感じられるからじゃないかな。みんな私たちからそういう幸せを感じとっていて、それは世界が本当に必要としているものだと思う。それで私は「ファック」と言うのが楽しいと知ったわけだし(笑)。 ―「The Feminine Urge」の「To nurture the wounds my mother held(私の母が負っていた傷を育てる)」という歌詞が印象的です。この曲はどうやって生まれましたか? アビゲイル:アルバムでいちばん親密な曲かもしれない。女性であることと、特に女性と母親との関係について語りたかった。子どもから大人になると、急に単なる母と娘じゃなくて、この世界を生きているふたりの女性になる。母親も間違いを犯すもので、かつては小さな女の子で自分の母親とのあいだに傷みを経験してきた……世代を超えるトラウマと歴史、特に母系の。娘がいたらどんな感じだろう? 私は彼女にどんな傷を与えるんだろう? 彼女がこの世界を生きてゆくのに自分はどんな助けができるんだろう、その意味は? 歌詞を書いたときにはそんなことを考えてた。 ―アルバニア語の曲「Gjuha」が入っているのは新鮮でした。 オーロラ:私の家族はコソボ出身だから、アルバニア語が私の第一言語なんだけど、イングランドで育ったから即忘れてしまった。私はアルバニア語を書けるし喋れるけどあんまり上手じゃなくて、ときどきそれを恥ずかしく感じる。曲はそのことについて歌ってる。これがアルバニア語で書いた初めての曲。私と自分の文化との関係、特に言語との関係について考えさせられる曲で、すごくカタルシスがある。歌うのはいい気分。 ―他に英語以外の言語を話せるメンバーはいますか? アビゲイル:ジョージアは日本語がかなり上手。リジーと私はフランス語をちょっと。フランス語で曲書けるかな……。レーベルがあの曲を歓迎してくれたのは驚いた。ポップやロックのアルバムに他の言語の曲が入っているのは珍しいことだから。 オーロラ:言語についての曲もね。