泉谷駿介・村竹ラシッドの系譜、阿部竜希が受け継ぐ 順大勢が5連覇のインカレ110mハードル、腰の痛み乗り越え成長
9月21日にあった陸上の日本インカレ3日目、男子110mハードルで順天堂大学の阿部竜希(3年、八千代)が13秒40(-2.1m)をマークして優勝した。順天堂大にとっては、この種目5連覇。泉谷駿介(現・住友電工)、村竹ラシッド(現・JAL)とつないできた優勝者の系譜をしっかりと受け継いだ。 【写真】日本インカレ優勝者たちのフォトギャラリー パリオリンピック出場選手も活躍!
「今までやってきたことは誰にも負けない」
2日目にあった予選で13秒53(-1.7m)、翌日午前の準決勝は13秒76(-0.9m)でいずれも組1着に入り、危なげなく決勝に進んだ阿部。準決勝のレース後、応援に来ていた村竹と話をする機会があったという。「何だ、あの走り」「いや、ちょっとハプニングがあって……」といったやり取りの後、「決勝は自分らしく楽しんでこい。学生の大会だから、『自分が一番強い』ということを信じながら頑張れ」と背中を押された。 決勝のリアクションタイムは8選手中、4番目に早い0.146。3台目と8台目を倒したが、中盤から東北学生記録保持者で準決勝をトップのタイムで通過した岩手大学・似内陸斗(3年、盛岡四)の体一つ分、前へ。「出たらもう、負ける気はしない」と最後まで加速を維持し、トップでゴールした。 「自分の中でプレッシャーをかけてしまって、『怖い』とか『本当に勝てるのか』という不安があったんですけど、『今までやってきたことは絶対に誰にも負けない』という自信もあった。最後は自分を信じて『もうやるしかない』という気持ちでした」。レース前に村竹の姿を見つけたときは「自分にはラシッドさんがいる」と強い味方がいることを感じながら、全力で駆け抜けた。
村竹から受けた技術面とメンタル面のアドバイス
村竹が日本タイ記録の13秒04(-0.9m)を出した昨年の日本インカレ決勝で、阿部は13秒91の6位だった。今シーズンは6月の布施スプリントで13秒35をマークすると、同月末の日本選手権で4位入賞(13秒41)。7月のオールスターナイト陸上で13秒32の自己ベストを出し、ハードラーとして大きく飛躍した。 昨年の夏に腰を痛めたことが、「自分の課題というか、苦手なことと向き合うきっかけになった」と自己分析している。「身長が大きい(191cm)分、みんなと腹筋の量が一緒でも、大きくて重い分、扱うことが難しい。なので他の人よりも、腹筋を止める動作が苦手なんです。すると空中から足を下ろすというところが弱くなるので、どうしてもハードリングタイムが長くなってしまう」 今年の日本選手権後、約3カ月間は特にハードリングタイムの改善に取り組んだ。日本インカレでは、山崎一彦コーチともコミュニケーションを取りながら「いつもより速いし、いいと思うよ」という言葉をもらい、「やってきたことは間違いじゃない」という自信になった。 指導者陣からだけではなく、村竹から教わったことも阿部の中では生きている。阿部は昨年までスタートが苦手で「パンッ!と鳴ってから、1回ラグがあった後に進んでる」という感覚だった。そこで村竹から「腰を上げたとき、しっかりおなかとお尻に力を入れると、一気に出られるよ」と助言してもらい、だいぶ改善できるようになってきた。 メンタル面では「欲を出しすぎると、ボロが出てミスする」という言葉が印象に残っている。これは東京オリンピックの代表選考を兼ねた日本選手権決勝で、フライングのため失格となった村竹自身の経験がもとになっているのだろう。「自分を見つめて走る、変に周りのことを考えない」ということを教えてもらい、阿部は「一番成長させてくれたアドバイスです」と感謝している。