「限界です」老老介護の末…85歳妻を殺害した罪に問われた夫(80)の裁判 夫が語った事件の“分岐点”とは【#司法記者の傍聴メモ】
■周囲に助けを求められなかったのか?語られた事件の“分岐点”
老老介護の末の事件…防ぐことはできなかったのか。被告は取材に対し“ある後悔”を口にした。 「やはり7月25日に断ったのが“分岐点”だと今でも思っている。 なんでああいう判断をしてしまったのか今でも悔やまれる」 被告が“分岐点”と語るのは、去年7月25日。裁判の中でも語られたこの日は、妻が医師から2回目の往診を受ける予定だった日だ。 しかし、1回目の往診で、うつ状態などと診断された妻が「私はおかしくない」と訴え、2回目の医師の往診を強く拒否。被告は、2回目の往診をキャンセルし、医師の力を借りることを自ら手放してしまったのだ。 法廷で被告は、「本人が嫌がっていても私自身が強く妻を引っ張るくらいの気持ちでやるべきだった」「妻が嫌がっていても専門家のアドバイスは聞くべきだった」と悔やんだ。 誰かを頼るきっかけを失ってしまった2人。 被告(被告人質問)「私も妻もよく言えばプライド、悪く言えば見栄っ張りで、人には弱みを見せたくなかった。 家族のことは家族でなんとかしなければというのがあったのかもしれない」「妹も後期高齢者で、きょうだいでたった1人の男である私が心配をかけるわけにはいかなかった」 親族や知人にも助けを求めることができなかったことを悔やみ、「今後は見栄を張らずに頼むことは頼む、お願いすることはお願いして素直になるべきだと思っている」とこれからの生き方についての思いを話した。 “豊かでなくても2人でなごやかな老後を送りたい”と考えていたが、その未来を自らの手で断ち切ってしまった被告。 今、妻に対し何を思うのか。 被告(被告人質問)「妻は一生懸命症状を治そうとしていた。その気持ちはもっと尊重してやらねばならなかった。妻はやっぱりまだ生きたかったんでしょうね…それを奪ったのは申し訳ない」「妻の願いを強引に取り上げたのだから一生懸命謝りながら供養していきたい」 (社会部司法クラブ記者・宇野佑一)
◇ ◇ ◇ 【司法記者の傍聴メモ】 法廷で語られる当事者の悲しみや怒り、そして後悔……。傍聴席で書き留めた取材ノートの言葉から裁判の背景にある社会の「いま」を見つめ、よりよい未来への「きっかけ」になる、事件の教訓を伝えます。